タビナカに特化した観光イベント「Tabinaka Summit(タビナカサミット)2026」が2026年6月に開催され、体験事業者やOTA、ツアーオペレーター、DMO、行政などの観光の担い手が参集した。2年目となる今年のテーマは「もっともっと稼ぐには?」。タビナカの収益性向上をめぐり、意見が交わされた。
このなかで、観光庁 観光地域振興部長の長崎敏志氏が登壇し、インバウンド市場の足元の変化とタビナカ観光の現状について語った。政策説明とともに、大都市圏への集中拡大、タビナカ観光消費の低さ、情報発信の変化、第三者の観光への理解といった具体的な課題を提示し、その対策へ本腰を入れる姿勢を示した。
まず、長崎氏が示したのは、インバウンド市場の変化だ。2026年の訪日外国人旅行者数は前年割れが続き、中国での日本渡航自粛の注意喚起や中東情勢、航空路線への影響、旅行コストの上昇など、不透明要因が重なっている。長崎氏は「成長の勢いは急速に落ち込んでいる。予断を許さない状況」との見方を示した。
訪問先の偏在も課題だ。外国人延べ宿泊者数ベースでは、2019年に三大都市圏と地方部がおよそ6対4だったのに対し、足元ではおおむね7対3となっており、特に東京への集中が目立つ。京都も訪問客数は多いものの、消費額では大阪の半分程度にとどまっているという。
長崎氏は、オーバーツーリズムや迷惑行為への懸念も踏まえ、「必ずしも観光に追い風が吹いているわけではない」と指摘。観光が地域経済にもたらすメリットを、数字と生活実感の両面で示す必要があると述べた。
タビナカ観光消費のシェアは4.5%、「何としてでも改善」
こうした認識のもと、長崎氏が特に強調した課題が、体験やアクティビティを含むタビナカ観光の消費の現状だ。訪日客の消費構造を見ると、過去の“爆買い”は影を潜め、買い物が占める割合は低下。その分、宿泊費の割合は高まっているが、タビナカ観光を含む娯楽サービスは全体の4.5%程度で、コロナ前から大きく変わっていない。
この現状から、長崎氏は「(このままでは)観光客の満足度は上がらないし、地域経済への貢献も実感されない」と指摘。観光庁として「何としてでも」改善に取り組む姿勢を示した。
これは、情報発信の課題にも関係する。日本政府観光局(JNTO)の訪日客に対するアンケート調査で、交通のルート検索や飲食店に関する情報は高く評価される一方、イベントや体験コンテンツなどに関する情報の評価が圧倒的に低い。長崎氏は「海外の旅行者から見ると、(日本やその地域で)何ができるのか分からない状況になっている」と説明した。
さらに、旅行者の情報収集も変化している。情報源は、JNTOや地域、事業者の公式サイトから、個人ブログ、SNSといった興味関心別で見る単位へ移り「役所が最も不得意とするところ。我々のコントロール外の情報源になっている」と説明。今後は、AIに選ばれる情報発信も不可欠とし、「現場で取り組んでいる方々と一緒に考え、情報発信をおこないたい」と話した。
今後は、国際観光旅客税も活用しながら、観光の地域への貢献や観光客の満足度向上につながる、タビナカ観光消費の拡大に取り組んでいく考えだ。
観光庁 観光地域振興部長 長崎敏志氏
世界との感覚のギャップ、観光客目線の施策が不可欠
タビナカサミットは「旅の最中に生まれる体験価値」をテーマに、JTBとGetYourGuide(ゲットユアガイド)、ジェイノベーションズ、羅針盤の4社が立ち上げ、2025年から共同開催しているカンファレンスだ。2026年は国内外のキーパーソンを迎え、13のセッションと起業家プレゼンがおこなわれた。
なかでも、タビナカOTAによるセッション「OTAデータから見る儲かるタビナカ体験の設計」が参加者の注目を集めた。世界のタビナカ商品に精通し、旅行者の動向を分析する登壇者らが、日本のタビナカ関係者に対して提言したのは、事業者の価値観だけではなく、旅行者目線で商品設計や販売戦略を立てる重要性だ。
例えば、Klook Travel Technology(クルック)のDMOパートナーシップマネージャー、田中美晴氏は急成長するインド市場向け商品について、インド料理のランチ付きツアーが、よく売れていることを説明。日本人は「訪日客は日本食を求めている」と考えがちだが、必ずしもそうではない。田中氏は「日本人が海外旅行中に味噌汁が飲みたくなる時があるのと同じ」とし、市場ごとに様々なニーズがあることを理解する必要性を説明した。
ベルトラ代表取締役社長兼CEOの二木渉氏は、単価向上の考え方として「長期的に考えれば、日本人と外国人の両方の需要獲得が重要」と話し、山梨県のほうとう店を例に紹介した。その店では、日本人が好む昔ながらの「ほうとう」に加え、伊勢海老を乗せ、松阪牛のステーキをセットにした1万円超のメニューも提供している。二木氏は「日本人の感覚では意外なとりあわせだが『せっかく日本に来たのだから、伊勢海老を食べたい』というニーズがあり、それに応えている。それにより、店内に日本人と外国人が共存している」と説明。ターゲットごとに多様な商品を用意することで、持続的な事業運営につながっているとの考えを示した。
バリエーションの重要性という点では、GetYourGuide Japan(ゲットユアガイド)日本オフィス代表の仁科貴生氏が、同社のデータから売り上げが伸びている地方都市の特徴として、商品ラインナップが多様である点をあげた。例えば、対前年で3倍、4倍伸びている広島では、日帰りから半日ツアー、プライベートツアー、小グループツアーなど、異なる旅行者ニーズに対応した商品がそろっている。一方で、伸びが小さい地域の多くが大都市圏からの日帰りツアーに偏っているという。仁科氏は、こうしたことを踏まえ「単価の向上だけではなく、売り上げの総額を上げる視点も重要」とアドバイスした。
左から)ゲットユアガイドの仁科氏、ベルトラの二木氏、クルックの田中氏このほか、セッションではタビナカ市場の動向変化から、AI活用、新商品トレンドなどについて、幅広い意見が交わされた。
レビュー(クチコミ)収集については、その重要性とともに、シンプルな改善方法も提案された。登壇者らは「レビューを残すときは、非常に満足したか強い不満を感じた時のどちらか」とした上で、レビューに対し、統一したトーンで返信を続けることで、訪日客が安心して予約できるとの考えを示した。また、レビューの分析や返信におけるAI活用への言及もあった。一方で「遠慮せず『レビューを書いてほしい』と言えば、驚くほど増えると思う。日本人は奥ゆかしいが、海外の体験事業者はアピールが強い」と、積極的なコミュニケーションを促す提案も聞かれた。
進行を務めたJTB BOKUN事業運営センター長の青柳淳氏は、同セッションで語られた収益性を高める商品づくりについて「テーマ性をもって企画をし、お客様の声をテクノロジーの力で迅速に改善へつなげることが重要」とまとめた。

