ツーリズムEXPOジャパン(TEJ)2026では、カンファレンスプログラムの一環として2026年9月25日に、海外旅行シンポジウム「AIを活用した海外旅行高付加価値化の創造」が開催された。
日本旅行業協会(JATA)が主催する同セッションでは、旅行会社、他業界の実践者、ITベンダー、メディアからの登壇者が、AIを単なる業務効率化のツールにとどめず、企画力や提案の質を高める相棒としていかに共存すべきかを議論。世界の旅行業界の注目が「生成AI」から自律的に動く「AIエージェント」へと広がるなか、AIに選ばれる独自コンテンツの発信や、不測の事態に対応する「現場力」の重要性が浮き彫りとなった。その要点をレポートする。
AIは相棒か、効率化の先にある付加価値
シンポジウムの冒頭、JATA海外旅行推進部部長の松岡正晴氏が趣旨を説明。JATAでは2030〜35年に向けた海外パッケージツアーのあり方の検討が進められており、旅行会社の企画力・高付加価値化の追求が不可欠であるとしたうえで、「金銭的・時間的・体験的な価値など、顧客ごとに異なる付加価値をいかに届けるかが最大の課題。その相棒に、AIはなり得るのか」と問題提起した。
また、シンポジウムのファシリテーターを務めたJTB総合研究所副主任研究員の小野寺薫氏は、「考えたいのは、AIによる単なる業務効率化のその先。人にしかできない付加価値づくりにつながるAIの活用方法を深掘りしたい」と議論の方向性を示した。
JTB総合研究所副主任研究員の小野寺薫氏
世界の潮流はAIエージェント、独自性が鍵
パネルディスカッションではまず、世界の旅行テック動向についてトラベルボイスの鶴本浩司代表が業界における自動化とAIの変遷を振り返り、「世界規模の旅行カンファレンスにおいて、3年前は生成AIが注目の的だったが、現在の話題の中心は明らかに自律的にタスクを遂行する『AIエージェント』へとシフトした」と報告した。
鶴本代表は、今後、旅行会社がAI活用から得るべき効果として、「業務の代替」、「効率化」、「利益の最適化」、「新体験」を提示。「現在はAIエージェント活用の黎明期だが、今後は旅行ビジネスの根幹に不可欠なインフラとして組み込まれていく。その際、旅行会社はAIエージェントに選ばれる存在にならなければならず、他社にはない独自情報や差別化されたコンテンツを自社サイトから発信し続けられるかが勝負になる」と指摘した。
トラベルボイス鶴本浩司代表
見積もりの自動化と「本音」の探求
日本の旅行業界における現場の実態については、ソリューション面から業務支援をおこなう日鉄ソリューションズ営業第一部エキスパートの籏野いづみ氏が言及。「メール返信や見積もり対応の自動化が進んでおり、メールを確認してGDSを叩き、空席状況や料金を照会するといった一連の作業負荷は着実に軽減されている」と現状を解説した。
一方で、人とAIの役割分担については、「対話の中から相手の本心を探る作業は、現段階のAIにはまだ難しい」(籏野氏)。「たとえば、ハワイに行きたいという要望に対し、リゾートを満喫したいのか、家族との時間を重視したいのか、単に行きやすい場所を求めているのか。言葉の背後にある最優先要素を汲み取るのは、人間の方が圧倒的に優れている」と話した。
日鉄ソリューションズ営業第一部エキスパートの籏野いづみ氏
AIが代替できない領域として「現場力」を挙げたのは、東武トップツアーズ営業統括本部未来共創ラボ部長の篠原俊成氏だ。「対話を通じて顧客の本音を引き出す力はもちろん、現地での不測の事態に臨機応変に対処する力、あるいは複数のステークホルダー間で合意形成を図る力は、人間に頼らざるを得ない分野だ」と強調した。
東武トップツアーズ営業統括本部未来共創ラボ部長の篠原俊成氏
業務の棚卸しで人の価値再定義を
他業界におけるAI活用の知見として登壇したのは、味や香りのデータ化事業を手がける味香り戦略研究所取締役副社長COOの早坂浩史氏である。「味や匂い、食感を機器で数値化し、嗜好性診断プログラムによって個人の好みと照合することで、AIがその人に最適な食をパーソナライズ提案できるようになった」と紹介した。
その一方で早坂氏は、「AIはデータに基づき好みに合わせてレコメンドすることはできるが、味覚を持たないため、たとえば『チョコレートを美味しいと感じる』という感性そのものは持ち合わせていない。その感性を教え込むのは人間の役割だ」と述べ、感性や情緒価値における人間の優位性を説いた。
味香り戦略研究所取締役副社長COOの早坂浩史氏
籏野氏は、「人間ならではの価値を明確にするためにも、まずは自社の業務を一度棚卸しして整理することが先決。そのうえでどの業務をAIに委ね、人間にしかできない役割として何を残すのかを再定義すべきだ」と提言。シンポジウムでは、業務効率化の先にある「人ならではの高付加価値化」に向け、旅行会社が自らの強みを見つめ直す重要性を共有した。



