エジプト観光の「今」、実際にカイロからルクソールをめぐってみた(2014年11月)【動画】

三大ピラミッドが一望できる絶景ポイントで

エジプト観光局とカタール航空は2014年11月下旬、大規模なエジプト・ファムツアーを実施した。「アラブの春」以降落ち込んでいる日本市場復活への足がかりをつくるとともにエジプトの「今」を視察するのが目的だ。エジプトはまだ危険なのか。それとも、現地の状況が日本に正確に伝わっていないだけなのか。実際にゴールデンルートと呼ばれるカイロからルクソールを巡ってみた。下段には現地で撮影した動画も掲載。ぜひ、現地の様子を感じ取ってほしい。

エジプトの観光業にとって日本市場の回復は切実な願い。その復活への第一歩といえる日本の旅行会社の視察ツアーでは、旅行者への安全確保を第一にした取り組みなども紹介された。

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▼変わらないカイロの喧騒、考古学博物館のカメラ持ち込みは禁止に

エジプト考古学博物館付近は暴動が起きた場所だが、博物館自体は無傷

カイロの喧騒は相変わらずだった。車のクラクションが鳴り響き、人々が器用に車の間をすり抜けながら道路を渡る。筆者が10年前に訪れたときと街の様子に変わりはなく、いわゆる「アラブの春」の影を旅行者が感じることは難しい。

唯一、考古学博物館の隣のビルが黒く煤けたままで立ち、暴動の余韻を残す。「この辺りは一番デモが激しかったところです」と現地ガイドは話すが、静けさを取り戻した今、その煤けたビルはピンクの外壁が鮮やかなエジプト考古学博物館の引き立て役になっているに過ぎない。

そのエジプト考古学博物館は今も昔もカイロ随一の観光地。ツタンカーメンの秘宝が重々しく展示され、歴代ラムセス王のミイラが眠る。その価値はエジプトだけでなく人類史にとっても貴重なもの。ガイドの説明に耳を傾けながら、遺産を見ると、往時へ馳せる思いも生々しくなってくる。

ミイラ室見学は100エジプトポンドの別料金。これは以前と変わらない。しかし、残念なことに、館内へのカメラの持ち込みは禁止になっていた。館内に入る前に指定の場所に預けなければならない。スマホの持ち込みはOKだが、撮影は厳禁。以前は、ストロボを使わなければ、ツタンカーメンの黄金のマスクの撮影もOKだったのだが。


▼モハメド・アリ・モスク、ハンハリーリの活気はまだ戻らず

外観も美しいモハメド・アリ・モスク

カイロの他の名所をいくつか回ってみた。そのひとつ、イスラム地区の丘に立つ「モハメド・アリ・モスク」も観光客に人気の場所。19世紀半ば、オスマントルコの支配下にあったエジプトの近代化の基礎を築いたモハメド・アリによって建立された。

イスタンブールのブルーモスクを模して建てられた美しいモスクだ。中庭には、モハメド・アリがフランス国王にルクソール神殿のオベリスクの1本を贈ったお返しにもらった時計台がある。

駐車場には大型バスも多いが、海外からの団体はまだ少なく、カイロや近郊から課外授業で訪れた子供たちがワイワイガヤガヤ列をなしてモスクに入っていく。日本人の我々を見つけると、一段とテンションが上り、女性たちは一緒に写真を撮ってくれとせがまれた。「日本人のサラサラの黒髪はミステリアスだから」とは現地ガイドの説明。無邪気な子供たちと厳重な入口のセキュリティー。どちらもエジプトの「今」だ。


シーシャ−。トライしてみる観光客も多い

フトゥーフ門からハンハリーリ市場を歩いてみた。モイッズ通りには、色鮮やかなシーシャ(水タバコ)吸引器を扱う店、工芸品の店、オリーブなど食材を量り売りする店が立ち並び、そのなかをバイクが走り抜ける。ハンハリーリも日本人観光客が必ず訪れるスーク(市場)。やはり、以前よりも人が少ない。まだ日本に限らず海外からの観光客は戻っていないようだ。

しかし、路地を歩いていると、「社長、3つで10ドル」というたどたどしい日本語で呼びかけられるのは以前と同じ風景。エジプトの買物はすべて交渉。定価はない。だから、「10ドル」は売り手の言い値で、そこから話し合いになる。

ハンハリーリではカフェでシャイ(紅茶)を

日本人にはいささか面倒な仕組みだが、昔から続くベドウィン的交易といったものなのだろう。メジャーなホテルでは普通にWi-Fiが飛んでいる現代でも、その風習は続いている。しつこく近寄ってくる売り子を諦めさせるには、「シュクランと答えればいい」とガイドが教えてくれた。「ありがとう」というアラビア語だが、「結構です」との意味にも使うという。



▼一生に一度はピラミッド、変わらず大きいその存在感

三大ピラミッドが一望できる絶景ポイントで

今回の視察ツアーに同行した、とある旅行会社によると、トルコやヨーロッパを旅行したあとにカイロに立ち寄るFITもいるという。理由を聞くと「やはりピラミッドが目的ですね。一度は見てみたいと言われる方が多いです」。カイロから高速道路でギザに向かう途中、ビルの谷間からそのピラミッドは忽然と顔を出す。

3大ピラミッドのうち最大規模を誇るのがクフ王のピラミッド。その壮大な姿は、革命が起ころうが、独裁が終わろうが、変わらない。悠然と、凛々しく、紀元前から何千年にもわたってエジプトを見守ってきた。


ピラミッドビューが自慢の「モーベンピック・ピラミッド・ホテル」

その前の駐車場には大型バスが数台並ぶが、ハイシーズンの11月としてはまだまだ少ないという。ピラミッド内部の見学もスムーズだった。物売りの数も少ない。あまり寄ってこられると辟易するが、少なすぎるのもどこか寂しい。

状況はスフィンクスでも同じだった。「これでも以前よりはマシ」とガイドは言う。実際、ライオンの体に人間の顔を持つ遺物の写真を撮っていると、スペイン語やロシア語が耳に入ってきた。徐々にだが観光客は戻ってきている。真正面に立つKFCとピザハットを静かに見つめているスフィンクス。この周辺が賑やかになるのも時間の問題だろう。


▼ルクソールの価値は普遍、ナイルの優しさも不変

ルクソール西岸ではラムセス3世葬祭殿も見所のひとつ

夕方5時過ぎ、ルクソール神殿に入ると、この日、4回目のアザーンが鳴り響いた。礼拝への呼びかけ。イスラム教の日常だが、どこか物悲しく哀愁を帯びた肉声は旅人の旅情を深める。陽が傾き、昼間の暑さもだいぶ和らいできた。ナイル川からの風も心地いい。

ルクソールは、ナイル川を挟んで、陽が昇る東岸には「生」を意味するルクソール神殿やカルナック神殿が立ち、陽が沈む西岸には「死」を象徴する王家の谷やハトシェプスト女王葬祭殿などがある。古代エジプトの都テーベがあったルクソールは今でも世界第一級の観光デスティネーションだ。


ルクソールのカルナック神殿も宝の山

ルクソール観光に現地ガイドは欠かせない。世界史的にも貴重な遺跡も、その中身が分からなければただの廃墟。一見したらただの岩山にすぎない王家の谷も、彼らのガイドによって新鮮味を帯びてくる。ラムセス6世の墓はツタンカーメンと同じ岩塊にあったため、しばらく発見されなかったという話もガイドの説明で知ったうんちくだ。

王家の谷で発見されている墳墓は現在のところ63。そのうち10ヶ所が一般公開されている。ツタンカーメンの墓の内部見学は有料。ラムセス3世や9世の墓は無料で見学することができる。人間が内部に入ることが、保存のための最大の脅威になるため、ガイドが内部に入って説明することはNG。墓も周期的に閉鎖し、状態を保つ努力が続いている。

王家の谷もカメラの持ち込みは禁止になっていた。入り口で預けることになる。版権の問題というよりもストロボなどによる墓内部の劣化を防ぐためだろう。世界遺産の保護は以前にもまして徹底している。

ルクソールはカイロと比べるとずいぶんと暑いが、悠々と流れるナイル川は、気分的にも体感的にも身体を癒してくれる。ナイルクルーズではデッキで昼寝、ファルーカ(帆掛け舟)では時間の流れを忘れる。これも、変わらないエジプトの楽しみ方だ。


▼頑張れ!大砂嵐、日本人の戻りは意外と速い?

メイナルディ氏、日本人に「早く戻ってきて」

エジプトの観光業にとって日本市場の回復は切実な願いだ。コンラッド・カイロ・ホテルのジェネラル・マネージャー・ジャン・ピエール・メイナルディ氏は「コンラッドの一番のお客さまは日本人だった。早く日本人観光客に戻ってきて欲しい」と訴える。

エジプト国内はここ数年激動してきたが、日本とエジプトの関係は長年にわたって良好だ。親日家のエジプト人も多いという。「ぜひ、大相撲の大砂嵐には頑張ってもらいたいね」。カイロ在住の日本人からも、現地のエジプト人からも聞こえてくる言葉に、日本人観光客の戻りも意外と速いかもしれないと思った。


▼カタール航空で成田、羽田、関西からエジプトへ

ストレスフリーで楽しめる空の旅

ドーハ国際空港では巨大テディベアを目印に

今回の旅は、カタール航空(QR)でカイロへ飛んだ。成田、羽田、関西からドーハで乗り継いでカイロまでスムーズに到着する。エジプトへの直行便がない現在、使い勝手のいい路線。特に、深夜発羽田便は、ドーハでの乗り継ぎ時間も2時間ほどでちょうどいい。

巨大なテディベアがシンボルのドーハ国際空港は、中東の一大ハブでありなが、コンパクトで乗り継ぎの移動も楽。免税店も多く、ブラブラしているだけでも時間を忘れる。

中東のエアラインながら、機内ではアルコールの提供もある。それはドーハ/カイロ線でも同じ。日本路線には日本人CAも多いので、余計なストレスを感じることなく空の旅を楽しむことができるのもうれしい。

▼動画:エジプト観光の「今」、動画でまとめ

 

  • 取材協力:カタール航空、エジプト大使館観光局
  • 取材・記事・動画 トラベルジャーナリスト:山田友樹

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