旅行比較サイト「Travel.jp」の戦略とは? VR柴田代表にビジネス方針から今年の業界トレンド予測まで聞いてきた

旅行比較サイト(メタサーチ)「Travel.jp(トラベル・ジェーピー)」を運営するベンチャーリパブリックCEOの柴田啓氏は、オンライン旅行業界の国際会議「WIT JAPAN」の共同創業者として毎年の企画に携わるなど、世界のキーパーソンとの接点を多く持ち、最新のビジネストレンドに対する意識が高い。海外の国際カンファレンスにも積極的に参加し、肌で感じた世界動向は、先ごろトラベルボイスで開始したコラムで披露しているところだ。

こうした知見を踏まえ、ベンチャーリパブリックとしては2017年、どのような手を打っていくのか。メタサーチを主幹とする同社事業に焦点を当て、業界のトレンド予測とともに、ビジネス方針と2017年の戦略を聞いた。柴田氏は、Travel.jpを「飛躍の年にする」と一段上のサービスに引き上げる一方、グローバル事業も加速させる意欲を示す。

新たな時代に入ったメタサーチ

ベンチャーリパブリックの主幹事業であるメタサーチの現状について、柴田氏は「節目にある。再編の波が世界中で起きている」と話す。2016年11月下旬に発表された中国旅行最大手Ctrip(シートリップ)のスカイスキャナー買収は、その表れ。このニュースは、昨年のトラベルボイスのアクセスランキングでも堂々の2位になり、注目を集めた。

ネット上に各種サイトが乱立し、「メタサーチの肝であるユーザー獲得の部分で競争が激化している。(メタサーチの)クライアントであるオンライン旅行会社(OTA)も競争相手になっている」というのが背景にある。そのため、OTAよりも比較的容易だったメタサーチでも新規参入が厳しくなり、プレイヤーの顔ぶれが決まってきた。さらに「特徴のないメタサーチは淘汰される時代に入った」と、取り巻く環境の厳しさを説明する。

しかし、この状況下でTravel.jpは「特にこの3~4年、非常に手ごたえを感じている」と順調な成長をアピール。トラフィックでは、日本の旅行サイト(OTAとメタサーチ)でトップ5内の規模になったといい、「2017年は飛躍する。チャレンジの年にする」と勝負をかける意気込みを示す。

タビナカ、民泊の推移と取扱い方針

戦略は2つの柱からなる。1つはリスティングの拡充、もう一つは競合他社と差別化できる強力な特徴付けだ。

リスティングに関しては、「日本のユーザーが求める商品を中心に、全部揃える」を方針に、これまでも拡充を続けてきた。ホテルやフライト、パッケージツアーに加え、今後はユーザーファーストの観点で民泊やタビナカ系も対応していくが、「動きを見極める必要がある」と考える。

例えば、民泊。「まだ混沌としているが、そのなかでも目立たない形で優劣がつき始めている」と、マーケットに対する認識を示す。そのなかで昨年12月には日本のメタサーチとして初めて、民泊仲介のAirbnb(エアビーアンドビー)と提携。検索結果の一覧に表示するというこれまでの手法ではなく、Airbnb物件は別の一覧を用意した。

タビナカについては、現地ツアーなど体験予約が注目されているが、柴田氏は「最初はマスがとれるアトラクションやイベントのチケットから普及していく」とみる。この分野は日本では、チケットぴあやローソンチケットなどが大手だが、「(大手がタビナカ市場に)本気にならないと一気に普及しないのでは」とし、推移を注視しつつ、Travel.jpとして網羅していく考えだ。

なお、柴田氏は今年、日本での法制化がされる見通しの民泊の広がりについても言及。「既存のホテルマーケットが水面下で崩れ始めているのは、宿泊料金の高止まりと民泊の影響」とし、「2020年までにホテルマップが大きく変わると思う。どこかのタイミングで宿泊は供給過多になる」とみているという。

さらに、「民泊が伸びるのは間違いない」とも断言。ホテルに比べて広い空間となることの多い個人宅への宿泊は、家族などの小グループの利用で費用対効果が高い。途家(トゥジャ)など中国の民泊仲介の勢いは、中華圏で多い大家族での旅行形態に合致していることが理由。これを踏まえれば、「日本でもインバウンドをはじめ、三世代を含む家族旅行のシフトは十分に考えられる」というが、「法制化後に形が見え始める」と慎重だ。

専門家の知識をメタサーチの武器に

img_8837リスティングの拡充は、あくまでもメタサーチで戦うための基盤整備。柴田氏が他社と差別化する武器と位置付けるのはコンテンツ、2012年に開始した旅行ガイドメディア「Travel.jpたびねす(たびねす)」だ。柴田氏はたびねすがトリップアドバイザーのクチコミ、トリバゴの巨大予算によるマーケティングなど、世界大手の圧倒な“特徴”に匹敵する強みになると見込む。

現在、たびねすに寄稿する旅のエキスパート「ナビゲーター」の数は約520名。記事数は約1万9000に拡大した。このナビゲーターと深く関わり、「Travel.jp全体のサービスを一段上に引き上げることが、2017年の最大のテーマ」と柴田氏。

ユーザーの旅行に対する興味は深化し、例えば花火鑑賞ツアーを探すユーザーは価格比較だけではなく、花火を楽しむための情報も求めるようになっている。「これをメタサーチの中で説明する記事があり、その上で予約できる選択肢があってもいい。この部分でナビゲーターの“ウィズダム”(知識)をいかしていく」というのが、柴田氏の戦略。

オンライン旅行のプレイヤーが、旅行の各フェーズ(ファネル)をまたいで事業を展開しはじめているなか、「ファネルを制覇するために、コンテンツの重要度はますます高まる」とし、「トリップアドバイザーがユーザーの知識を使って旅行の一大勢力をつくったように、我々は専門家であるナビゲーターの知識を強みとする」と勝算を語る。

柴田氏によると、世間のたびねすに対する注目が高まっており、さまざまな媒体での記事配信やナビゲーターに対するメディア出演依頼が増えた。「他メディアにもナビゲーターの資産を活用してもらうと同時に、ナビゲーター自身の価値向上にも繋げる。それがたびねすの価値向上にもなる」との考え。

最近では地域のDMOを中心に、旅行関係の事業者がナビゲーターをインフルエンサーとして活用する動きも出てきてた。「業界全体にも役立つ存在になってきている」と、早くも見え始めた効果を語る。

グローバル事業をTravel.jpに並ぶ柱に

もう一つ、ベンチャーリパブリックが力を入れるのが、2016年に本格化したグローバル事業。将来的に日本のマーケットの弱体化が避けられないなか、日本を主戦場とするTravel.jpと並ぶ同社の2本柱とする考え。現在展開しているのは、韓国の宿泊比較サイトALLstay(オールステイ)と、シンガポールでの外国人観光客向けデスティネーション・ガイドメディアTrip101(トリップワンオーワン)だ。

日本の旅行事業者のグローバル展開では、日本へのインバウンドを主軸とするケースが少なくないが、柴田氏が狙うのは現地マーケットのシェア。「インバウンドはその地に根差さないととれない」という考えで、その結果得られる果実として捉える。

既に韓国のAllstayではその兆候が出ている。2015年から開始したスタートアップだが、現在では月間数万単位の予約数を稼ぎ、「韓国のメタサーチで2番手群になり、トリバゴと競い始めている(柴田氏)」までになった。宿泊施設の国別の最大シェアは2分の1を占める韓国だが、3分の1は日本の施設が占めており、「蓋を開けてみたら(日本の)インバウンドがとれた」と話す。

現在、ALLstayは韓国、Trip101は英語圏のマーケットを対象にトラフィックは数十か国に分散しており、ターゲットは「国や地域で限定する考えはない」と柴田氏。ゆくゆくは中国とインドを除くアジアと英語圏を軸に世界展開を視野に入れる。

2017年の世界的な動向として注視していることに柴田氏は、マーケティングサイドにあったFacebook(フェイスブック)やGoogle(グーグル)の旅行事業への動きをあげた。また、人工知能(AI)やチャットボット、さらにはネットワーク上の新たな仕組みとして注目されているブロックチェーンについても、旅行に与える影響に関心を持っているという。変化の潮目を睨みつつ、戦略を立てていくベンチャーリパブリックの動きに注目していきたい。

聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫

記事:山田紀子(旅行ジャーナリスト)

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