国内オンライン旅行4強のトップ発言から読み解く「次の一手」、追撃するKDDIも参戦した各社の議論を整理した

オンライン旅行の国際会議「WIT Japan」のなかでも、毎年注目が集まるのが日本国内のOTAが一堂に介するセッション。今年は、楽天トラベル、じゃらん(リクルートライフスタイル)、一休(ヤフーグループ)、i.JTBの4強に加え、旅行領域に本格参入したKDDIが子会社化した「Relux(リラックス)」とともに参戦。議論は、幅広い視点で各社の現況から注力分野、グローバルOTAとの競合など多岐にわたった。一問一答方式の端的な回答からも、各社の戦略がうかがい知れる。

OTA4強の「うれしい」「残念」な数字は?

今年のセッションは「この1年間のビジネスについて、うれしい数字/残念な数字は?」の質問からスタート。回答はそれぞれ異なるが、各社とも成長を示す数字を取り上げた。

例えば、楽天のトラベル事業長・高野芳行氏は、国内宿泊の人泊数に占めるシェア「20%」を提示。「今年に入って20%を超えるようになってきた。宿泊施設とともにネット比率を引き上げる取り組みをしているので、達成感がある」と、評価した。

楽天:トラベル事業長・高野芳行氏

また、昨年にヤフーの完全子会社となった一休は、サイトへの訪問者数の倍増で「×2 Visitor」と回答。一休CEOの榊淳氏は「自社単独によるものと言いたいところだが、ヤフーからのトラフィック流入」と述べ、ヤフー効果による成長度合いを示した。

一方、残念な数字ではじゃらん.netを運営するリクルートライフスタイル執行役員の宮本賢一郎氏が、2016年度の予約受付ベースの取扱高成長率「+6%」をあげた。プラス推移ながらも残念な数字とした理由として、熊本地震によるマイナスの影響に触れつつも、「もう少し伸ばせると思っていた」と、成長に対する貪欲な思いを示した。取扱高の伸びを牽引するのは、客室単価の上昇より人泊数の増加が寄与しているという。

リクルートライフスタイル執行役員の宮本賢一郎氏

i.JTB執行役員の三島健氏は残念な数字として、国内の民泊の年間利用泊数が「700万人泊」と示した。これは同社の社内調査などによる推計値。三島氏は、「このボリュームへのアプローチが戦略的にできていないのは辛いところ」と、同社はもちろん、旅行会社全体の課題でもあることも示唆した。

i.JTB執行役員の三島健氏

なお、各社の業績を捉える機会は貴重なので、発表された数値はスマホ予約比率とあわせ、以下に記載する。

  • 楽天(トラベル事業部 事業長 高野芳行氏)
    • うれしい数字「20%」: 観光庁「宿泊旅行統計」の都道府県別人泊数から割り出した楽天のシェア(国内宿泊の人泊数に占めるシェア)
    • 残念な数字「#2」:観光庁の2016年の「主要旅行業者の旅行取扱状況」の取扱高で2位
    • スマホ予約比率:ピーク時期は60%、そのうちアプリ経由は50%
  • リクルートライフスタイル(執行役員 宮本賢一郎氏)
    • うれしい数字「17975」:アクティビティ予約「あそび体験予約」の予約可能なプラン数の充実。東京商工リサーチの調査で、ネット予約可能な施設数と利用率で1位に。
    • 残念な数字「+6%」:2016年度の予約受付ベースの取扱額成長率。
    • スマホ予約比率:非公開
  • 一休(CEO 榊淳氏)
    • うれしい数字「×2 Visitor」:サイトへの訪問者数が倍増。
    • 残念な数字「~5%」:自社のインバウンド比率
    • スマホ予約比率:40~50%、そのうちアプリ経由は10~20%
  • i.JTB(執行役員 三島健氏)
    • うれしい数字「13,000,000USD(14億円)」:BtoCのウェブ事業の売上高。過去最高
    • 残念な数字「700万人泊」:JTBの社内調査による、日本国内の民泊の年間利用泊数(推計)。
    • スマホ予約比率:30~40%、スマホもブラウザからの予約

一問一答で見えた各社の「次の一手」、外資OTAへの危機感は?

一問一答の回答からは、各社の戦略や方向性を垣間見ることができた。

例えば、海外OTAとの競合に対する認識。米・フォーカスライトの調査によると、日本国内の予約流通額は2011年から2015年に238.6%増と大きく増加したが、その構成比で国内OTAのシェアは縮小し、海外OTAをはじめその他の存在感が増している。これを踏まえた上で海外OTAに対する危機感をパーセンテージで回答を求める質問に、楽天・高野氏は「100%」、一休・榊氏は「0%」と、真逆の数字が示された。

パネル中に示されたフォーカスライトの調査データ

一休・榊氏は「我々の主要事業は国内ホテルを国内に販売すること。この市場ではシェアを伸ばしている」と、同社のターゲット特化型の戦略を説明し、この分野での競争に自信を示した。

一方の楽天・高野氏は「ものすごい危機感を持って進めなければならない」と語り、海外OTAのテクノロジーと予算を投じるサービスとマーケティングに対する脅威を語った。ただし、「日本では、楽天グループの強い基盤があり、海外OTAよりも優位にある」と語り、グループ経済圏を有する強みをアピールした。

新たな展開を予感させるのが、i.JTB三島氏の回答。高野氏と同様、海外OTAのマーケティングやテクノロジー活用を踏まえて「100%」とするものの、「OTA事業とは異なるが、米・アマゾンはリアル店舗を作りはじめた。我々も800の店舗を有する旅行会社として、オンとオフの両方を活用できれば」と、OTAにない店舗網を活用することで、危機感を「50%」に下げた。

このほか、「1000億円の投資ができるなら、どの分野に投資するか?」という質問では、リクルートが「国内需要創造」、一休が「国内レストラン開拓」など、各社の注力分野が浮き彫りに。

ユーザーとサプライヤーの双方に対するベストマッチングでサイトの価値向上を目指す楽天・高野氏は、「AI」と回答。「旅行業のAI対応は、データを分析してリコメンドエンジンを作ることが中心になると思う」と語り、「楽天は大量のデータを有する企業であり、データを活用する部署や旅行事業専属のデータ分析官もいる」と、体制整備が進んでいることも説明。「海外の競合と戦っていける」と自信を見せた。

AIについては、一休も取り組みを進めていることに言及。榊氏によると現在は、「検索結果のパーソナル化に取り組んでいる。毎日、AIでパラメータの最適化をしている」という。

Reluxはインバウンドに絶対の自信

セッションの後半は、今年2月に高級宿泊予約のReluxを完全子会社化し、旅行領域に本格参入したKDDI・ジェネラルマネージャーの大野貴広氏と、Relux運営のロコ・パートナーズCEO・篠塚孝哉氏がパネラーとして登壇。

完全子会社としてKDDIグループに入った今、最大のチャレンジは何かを質問された篠塚氏は、「KDDIリソースとの繋ぎ込み」と述べ、「グループ全体で会員数4000万人、国内店舗数2000以上、営業利益8000億円という巨大な資産を、どのようにReluxに使い、成長させていくか。3か年計画を引いて取り組みを始めたところ」と説明。すでに昨年と比べると、流通額ベースで数倍の推移となっており、「さらに伸ばすことに注力している」と、意気軒昂だ。

右:KDDI・ジェネラルマネージャーの大野貴広氏/左:Relux運営のロコ・パートナーズCEO・篠塚孝哉氏

この両社を加えた全パネリストに出された質問は、「自社のビジネスに占めるインバウンドの割合」。母数となる全取扱額の規模が各社によって異なるものの、楽天とリクルート、一休がいずれも「5%以下」、i.JTBが「10%」に対して、Reluxは「15%」と、頭一つリード。

成功要因を問われた篠塚氏は、「海外OTAは中間層向けで、ハイエンドに特化したインバウンド向け宿泊サイトは、競合がいない」と、マーケットに入り込めた理由を説明した上で、「ローカライズにここまで力を入れているOTAは他にいないと思う」とマーケティングの努力も強調した。

ReluxではアプリやSNS、チャットサービスを、その国のトレンドや文化、マナー、デザインなどにあわせて提供。それによってサービスが急伸し、インバウンド事業はこの2年間の取り組みだが、会員ベースで20%、トランザクションでは15%を占めるようになったという。篠塚氏は改めて「全体の数字が数倍に伸びている中で、インバウンドが急拡大している」と強調し、この分野での自信を示した。

なお、セッションで言及はなかったが、Reluxは台湾の銀行中国最大手の民泊仲介サイト「tujia(途家)」韓国メタサーチの「All stay(オールステイ)」と提携5月には中国・上海に100%子会社を設立するなど、今年に入って海外での基盤拡大の動きを強めている。

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本セッションでは途中から、アゴダ副社長のティモシー・ヒューズ氏もモデレータとして登壇。海外OTAからが気になる日本と北東アジアのオンライン旅行業界の動向を取り上げた。その一つとして指摘したのが、アジアの旅行会社による欧米のプレイヤーの買収の動き。

2016年には中国大手のCtrip(シートリップ)がスカイスキャナーを、先ごろにはJTBが欧州大手のツアーオペレーター、クオニイを買収。そしてWIT Japan 2017の開催から5日後の6月14日、リクルートライフスタイルの親会社であるリクルートホールディングスが、ホテルのクチコミ評価のTrust You GmbH(トラスト・ユー)を買収し、完全子会社化したことを発表した。

M&Aで日本やアジアから世界への足掛かりを広げていく。来年のセッションでは、どのような成長の姿が語られるのか。各社の次の一手に注目したい。

取材・記事 山田紀子

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