HISが宿泊施設の「直接販売の支援」に舵を切る理由とは? 宿泊予約サイト「スマ宿」終了の背景と今後の国内旅行事業を聞いてきた

エイチ・アイ・エス(HIS)が国内宿泊予約サイト「スマ宿」を、2017年8月31日で終了する。これに先立ちHISは、宿泊施設の直販予約システムのエス・ワイ・エス(SYS)を資本業務提携によりグループ化し、国内宿泊施設の直販支援サービスを行なうことを発表。同社は、サプライヤーの流通機能となって代理販売で収益を得る旅行会社としてのビジネスモデルから、サプライヤーの直販を推奨する事業に舵を切る。

この決断について、HIS取締役国内旅行営業本部本部長の織田正幸氏は「流通の革命を起こす」と意気込む。「新しい流通に、スマ宿で培った経験と宿泊施設との関係性を移行し、両者で成長していく」と話す織田氏に、今後のHISの国内事業について聞いてきた。

3年後の国内宿泊マーケットに先手

今後、同社はこれまでスマ宿に契約していた宿泊施設に、SYSの接続サービス「Direct Reservation System(DRS)」への切り替えを促すことになる。

HISがこれまで育ててきたオンライン宿泊サイトを辞めて、国内宿泊予約で直販化を推進する理由とは何か?

それは、大きく2つに分けられる。1つは時代のトレンド。「ホテルが自前で直接販売したいという流れが加速している。その流れに、HISとして先にタッチしたい」と織田氏。

欧米の大手グローバルチェーンの直販率は約50%といわれており、織田氏は「日本もそうなっていくだろう」と展望する。現在は、日本市場における宿泊予約は「直販が10~20%以下、OTAが30~40%、残りがリアルではないか」と、日本の直販比率が小さいとみる。一方で将来的には「その比率は激変する。直販比率が50%になったときに、先行者利益を取っているようにしたい」と話す。

2つ目は、国内旅行事業におけるHISのポジショニング。海外旅行では常にトップを争うHISだが、後発の国内旅行は右肩上がりの成長を続けているものの、年間売上高は500億円。「弱者の立場」にあるといい、現状のままでは「在庫を仕入れて販売する伝統的なビジネスモデルでは、HISとして勝算はない」。また、オンライン事業では先行する国内大手OTAに対して「サイトの強さと宿泊施設への影響力で不利」とみる。

だからこそ、「飛躍的に伸びていくためにはやり方を変えていかないと勝算はない」と判断した。変える部分とは、オンラインにおける既存の宿泊予約の流通(メタサーチで検索 → OTAで予約 → 宿泊施設)。つまり、「OTA」を抜くことだ。「これは旅行会社とは相反するところにあるが、ホテルの空中戦のビジネスでは、HISグループとして旅行会社ではないSYSが活躍するのが良いと思っている」との考えだ。

HIS:報道資料より

「宿泊施設には切り替えをお願いする以上、我々も宿泊施設向けのOTA事業から撤退する決定をした」と織田氏。退路を断って臨む直販支援事業、宿泊の直販化が主流になるのは「我々の事業計画では3年。宿泊施設の公式サイトがベストレートであり、ベストアベイラビリティであり、ベストサービスであれば、そこに直接、消費者が入るようになる」とみる。

その時にはビジネスとして軌道に乗ると見込む。「SYSのシステム利用料収入で、売上70~100億円を取りに行きたい」と織田氏。スマ宿の契約施設の反応は、告知からまだ間もないものの「直販モデルには興味を持っていただいている。少なくとも7~8割は新しいビジネスモデルに共感して参画していただけるのではないか」と、手ごたえを感じているという。

「我々が目指すのは、サプライヤー、お客様、販売側の『三方よし』のビジネス。より少ない利用料で直販ができる環境を目指している」と力を籠める。将来的には、レストランやアクティビティ、観光情報などについても、HISグループの体験予約「アクティビティ・ジャパン」やクーポン事業などと連携し、宿泊予約から派生するビジネスにもタッチしたい考え。その手数料のうちいくらかを、宿泊施設に還元することも視野に入れている。

国内旅行の倍増計画ともシナジー

直販支援事業の開始により、HISの国内旅行事業から宿泊施設向けのOTA事業が抜けることになる。しかし、HISでは創業40年にあたる2020年に、国内旅行事業の売上高を現在の500億円から1000億円に倍増させる目標を掲げている。目標に向け、何に注力していくのか。

「国内旅行では弱者の戦略をとらなくてはいけない。そこで一点特化し、局地戦に持ち込む。そういう意味で沖縄に力を入れていく」と織田氏。

HISでは沖縄事務所を分社化し、今年10月から営業を開始する。現地の営業を、従来の沖縄発のアウトバウンド中心のビジネスに加え、年間700万人市場の沖縄へのインバウンド市場を狙い、日本人・外国人問わず集客する。分社化は、着後のインフラやオリジナルコンテンツを増やすための体制強化が目的だ。

「ビーチリゾートの沖縄は、我々がハワイやグアムで培ったノウハウ、特にホノルル支店での成功体験やビジネススキームを展開していける」と自信を示す。これをモデルケースに、その他の国内都市へ展開したい考えだ。ただし、「沖縄はもともと送客の分母があったので現地法人化したが、その他の主要都市は宿泊施設の仕入れで後発」との現状も語る。そのため、各地区本部に仕入れ専用の部門を作り、強化していくという。

HIS取締役国内旅行営業本部本部長の織田正幸氏

仕入れは、近年の旅行会社全般の課題であるが、織田氏は国内宿泊市場について、こうも展望する。「オンライン上の販売とリアルのリテーラーを使った団体、パッケージ販売の2本の柱で動かされることになる。我々はオンライン上の販売は直販支援サービスの領分だが、ここで宿泊施設との関係を構築し、深めることで、リアルでの勝負でもよい関係を築きたい」。HISにとって直販支援サービスは、同社の仕入れ全般にもシナジーを生むとみる。

とはいえ、HISでは国内旅行事業のもう一つの柱に、オンライン販売をあてている。これは、航空券やパッケージツアーの販売をはじめ、「HISがリアルで直接仕入れたアロットについて、その販路として行なう」もの。「サイトコントローラーに入っていないHIS独自の在庫(価格優位性などの独自性を持つ)であるのがポイント。弊社ならではのエッジの効いた商品として出していく」と説明する。

HISでは最近、このオンライン販売に「とれじゃ」と名づけ、ブランディングを開始した。このサイトはUI/UXを磨き上げ、お客様に使いやすく選ばれるサイトにしていくという。

海外航空券の格安航空券で旅行会社の既存ビジネスに風穴を開け、ベンチャーから海外旅行のトップにのぼったHIS。今度は、国内宿泊の流通革命で戦いを挑む。その挑戦と今後の動きに注目したい。


聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫
記事:山田紀子

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