観光の新概念「メタ観光」が本格始動、地域のコンテンツを「意味と価値の地図」で可視化する、新たな取り組みを聞いてきた

2020年11月に設立された「メタ観光推進機構」が、本格的な活動を開始する。「観光=情報の消費」と定義すれば、その情報は切り口によって無数にある。それらを、検索を俯瞰するメタサーチのように、一段高いところから捉えるのが「メタ観光」だ。この新しい概念で、実際的に何ができるのか?そして、どのような効果が生まれるのか?

その活動の中身を、同機構代表理事の牧野友衛氏に聞いてみた。同機構では、2021年9月から、東京都墨田区を舞台に「すみだメタ観光祭2021」を展開、さまざまな仕掛けでメタ観光の可能性を模索していくところだ。

「隣の人が楽しんでいる価値」を可視化

メタ観光では、ある事象、ある場所、あるコンテンツに対する重層的な「見方」を縦串する。牧野氏は、「たとえば、」と、東京・神田の甘味処「竹むら」を例に挙げ、「ここは、池波正太郎の本に登場したり、仮面ライダーのロケ地だったり、アニメ『ラブライブ!』の聖地になったりと、見ているものは同じでも、それぞれ消費している情報の意味は異なる」と説明する。

概念的に言うと、観光とは実際に見ているものに含まれる価値やストーリーを消費していることになる。「一つの場所を様々な見方で楽しむことができれば、もっと観光が面白くなるのではないか、というのがメタ観光の考え方」と牧野氏。池波正太郎のファンにとっては、『ラブライブ!』の背景は新しい情報であり、新しい価値になる。

ある事象に対して、さまざまなレイヤーでアクセスできるメタ観光は、「インターネットに近い」と、牧野氏は話す。グーグルやツイッターでの経歴を持ち、前職ではトリップアドバイザー日本法人で代表取締役を務めた牧野氏ならではの言葉だ。

メタ観光推進機構では、このメタ観光の実践的な取り組みで、個別の観光形態を位置情報としてマップ上に示すことを目指している。「隣の人が楽しんでいる価値」を可視化すること。つまり、「単なる情報の地図ではなく、意味と価値の地図」がメタ観光のキモになってくる。

報道資料よりメタ観光が生み出す5つの効果

メタ観光では、どのような効果が期待できるのだろうか。牧野氏は、5つの視点を挙げる。

まず、観光DXの視点。地域の文化資源や観光資源を位置情報を軸に統合したデータベース化することで、さまざまなアウトプットが可能になる。各施設の情報がテーマごとに分散している状況では、ある特定のテーマについて、施設から逆引きで知ることはできないが、データベース化することで、場所や施設からさまざまなテーマにアクセスできるようになる。利用者側が感じる価値も上がる。

2つ目がダイバーシティ。旅行者のニーズや価値観が多様化しているなか、それぞれを可視化する。池波正太郎、仮面ライダー、『ラブライブ!』などの多様性をまとめることで、「竹むら」には老舗甘味処を超えた新たな「メタ像」が浮かび上がってくる。向島の「秋葉神社」に、そこを描いた歌川広重の浮世絵や井上安治の版画の価値を地図上で可視化すれば、神社を超えた「メタ観光地」として多様化する。

3つ目がマスから個性へ。「100万人集める場所1ヶ所よりも、1万人集める場所100ヶ所を持っている方が、これからの観光にはいいのではないか」と牧野氏。コロナ禍で注目されたマイクロツーリズムや分散型ツーリズムにもつながるテーマだ。

4つ目がサステナブル。メタ観光は既存の見えない価値を可視化することなので、投資によって新たな資源を作り出す必要はない。

そして、最後がシビックプライド。可視化することで、自分たちの地域の価値に気づき、改めて好きになる。牧野氏は「いろいろな見方をすれば、どこが観光スポットになるか分からない。メタ観光の面白さは、暮らしのなかに旅行者が入っていくところ。そのためには、自分の地域に誇りを持つ人たちを観光づくりに巻き込んでいかないと、うまくいかない」と話す。

メタ観光推進機構代表理事の牧野友衛氏

「すみだメタ観光祭」でモデルケースを

こうした概念と期待する効果を実践する機会として、同機構は文化庁の助成事業を活用し、墨田区観光協会と「隅田川 森羅万象 墨に夢」実行委員会との連携で、今年9月~12月にかけて「すみだメタ観光祭」を展開する。8月24日には、そのキックオフイベントとしてYouTubeライブで企画発表会を実施した。

メタ観光祭の前段は、メタ観光マップを作成するためのデータベースの構築。公開情報を収集するほか、専門家によるワークショップから新たな魅力を発掘し、アーティストによる作品制作を新たな魅力として、データベース化する。

専門家によるワークショップでは、街歩きのなかで何気ないポイントを再発見。電線愛好家、ドンツキ協会、暗渠マニアなどを招聘し、参加者と一緒に墨田区内の特定の魅力を発掘し、新たなレイヤーとして地図上に可視化する。

また、アーティストではミニチュア世界を表現する写真家の本城直季さん、女学生を主体とした情景ポートレートを創作する写真家の架空荘さん、丸シール絵画の丸シール絵画の大村雪乃さん、見立て風景作家の鈴木康広さんに墨田区を背景とした作品の制作を依頼し、新たなアートのレイヤーとして地図に加える。

さらに、牧野氏は、専門家やアーティストなどのプロの視点だけでなく、個人の思い出もレイヤーになるとの考えを示す。「データベースには誰でも何でも入れられるようにしていきたい。大事なのは、次のステップとして、それを抽出するキュレーション的な作業になる」と話す。

すみだメタ観光祭の後段はメタ観光の振興。キュレーションしたデータを「価値と意味」としてマップ上で可視化する。今回は既存のuMapを活用するが、将来的には、独自の地図プラットフォームを構築し、「ウィキペディア的な地図にしていきたい」考えだ。

そのマップをもとに、11月にはキュレーターガイドがコースを作成して案内するモニターツアーを実施するほか、12月にはメタ観光を楽しむテストツアーの販売も計画する。また、「すみだ北斎美術館」ではアーティストが制作した作品を展示。12月4日には、一連の成果を発表する「メタ観光マップ完成報告会」を開催する予定だ。

プレゼンテーションより「すみだメタ観光祭では、モデルケースを示すために、フルパッケージで展開するが、メタ観光とは概念なので、やり方はいろいろある」と牧野氏。たとえば、百貨店でも、その施設と歴史にはさまざまなストーリーがあるため、ショッピング以外の切り口でのガイドツアーも可能になるという。

「(観光振興をする人の中には)『自分たちの地域には観光になるようなものは何もない』という人は多いが、そうではない」。

それが、メタ観光の発想の原点だ。

聞き手: トラベルボイス編集長 山岡薫

記事: トラベルジャーナリスト 山田友樹

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