世界的な旅行需要急増 vs 異常気象と自然災害、ここで観光産業が「行動しない」ことは負の影響へ【外電】

今夏のハワイやカナダ、ギリシャでの山火事、米フロリダ州やカリフォルニア州を襲ったハリケーン、さらに熱波、干ばつ、洪水などが容赦なく続いたなか、サステナブル観光に取り組む国際機関を率いるジェレミー・サンプソン氏の不安は尽きない。

世界のどこかで、ほぼ毎日のように悲惨なニュースが報じられ、サンプソン氏も被災地を心配している。同時に、気候変動の重すぎる代償について考える時、同氏の頭をよぎるのは、自身の子供たちのこと、そして「マシュマロ」の思い出だ。

この夏も、大きな自然災害が相次いだが、地球の温暖化がもたらす未来について、自分にも大いに関係ある問題なのだと、多くの人が目を向けるきっかけになればとサンプソン氏は考えている。観光産業が、地球環境を守りつつ成長するためには、今までにないレベルでの大掛かりな調整が不可欠であり、今の状況が唯一の好機かもしれないと感じている。

サンプソン氏がCEOを務めるサステナブルツーリズムの非営利団体、The Travel Foundation(トラベル財団)は、2023年3月にレポートを発表。国連が提唱する「2030年までに排出ガス半減、2050年までに実質ゼロ」という目標を達成し、同時に成長を続けるために、観光産業が取り組むべきことをまとめた。

同レポートは、充分すぎるほどのエビデンスを盛り込んだ内容だったが、現在までのところ、「もっと行動を」という掛け声が高くなっただけ。コロナ禍が去って需要が急回復するなか、果たして観光産業は、問題には毅然と対処し、未来に迫る次の脅威へ備えることができるのだろうか?

「驚異的な需要拡大」と相反する「異常気象の影響」

ポーランドの旅行テック企業、Anixeが8月に発表したレポートは、相反する2つの状況があると指摘している。世界の旅行予約データが示す通り、「驚異的な」需要拡大が続く一方、「年々、ひどくなる異常気象」の影響も顕著で、欧州南部で夏に冷たい嵐が発生したり、熱波や山火事に襲われたりしている状況に警鐘を鳴らしている。

「残念ながら、旅行業界にとっては、一難去ってまた一難だ。地球規模の気候変動が、牙をむくようになっている」と同レポートではコメントしており、「この新たな旅行を脅かす脅威は、今後も続く」と付け加えた。

世界経済フォーラムのレポートも、同様の見方を示している。世界的な気温上昇が観光産業に影響を与えており、例えば7月にはギリシャのロードス島で、山火事から避難する事態になったことや、アテネ市当局が猛暑を理由に、アクロポリスを閉鎖したことを挙げた。

こうしたレポートの発表後、8月後半にはさらにひどい事態になった。ハワイでは、山火事で多くの人命が失われ、ラハイナの町が大きな被害を受けた。カリフォルニア南部を襲ったハリケーン「ヒラリー」には、米当局がハリケーンを対象とする警報を初めて発出。月末には、カテゴリー3級のハリケーン「イダリア」中心部がフロリダ州に上陸し、米気象庁は「前例のない事態」とコメントした。巨大ハリケーンがメキシコ湾を横断し、フロリダ半島の付け根、“ビッグ・ベンド”地域に達することは前代未聞という。

自然災害には慣れているという人でさえ、この夏に各地で起きた災害は「驚異だった」とサンプソン氏は話し、これが将来的にはプラスの効果を生むと期待している。

「このひどい状況の中に、何か希望を見出すとしたら、自然災害が起きる度に、気候変動リスクとは何か、誰の目にも明らかになっていくことだろう」と同氏。「我々が何を問題視しているのか、分かってもらえることを期待している。目に見える形で生活に影響がない限り、理解できない人もいる」と話す。

サンプソン氏自身が気候変動のインパクトを実感するのは、例えば家族と一緒に過ごす休暇のひとときだ。一家が暮らすワシントン州スポケーンでは、大自然の中でのキャンプが夏の風物詩だが、毎年、山火事の影響を受けるようになった。米西部では、以前から山火事が時々あった。だが最近では、春が来れば咲くライラックのように、毎年、繰り返す出来事になっている。

仕方なく、家族とキャンプに出かける時期を、昔よりも前倒しすることで、ほぼ確実に発生する煙害を避けるようになった。出かけられたとしても、キャンプファイヤーはもうできない。

「世の中全体から見れば、ほんの些細なこと」と同氏。「でも子供時代、屋外で過ごしたり、焚火にマシュマロをかざして焼くは最高の時間だった。でも今や、北西部の全域で、夏に焚火はできなくなり、マシュマロも焼けない。自分が昔、大好きだったことを、子供たちと一緒に楽しめないのはとてもさびしい」。

観光産業に求められるコラボレーション

同様に、ほとんどの旅行者が、気候変動のせいで、何かしらの計画変更を余儀なくされたことがあるとサンプソン氏は考えている。例えば、雪不足によるスキー旅行のキャンセル、ハリケーン激化によるクルーズ運行スケジュール変更、熱波によるローマのウォーキング・ツアーへの悪影響など。

こうした旅行トラブルやマシュマロは、山火事やハリケーン被害とは比較にならない小さな出来事だが、自分の身の回りで起きたことの方が、より切実に問題に向き合うきっかけになる。遠く離れたところの大災害よりも、身近なところでの経験の方が、人々の行動をより強く促すはずだと同氏は見ている。

とはいえ、観光産業が2050年までに(排出ガス)実質ゼロを実現するためには、産業界を挙げての協働体制が不可欠な状況だ。果たして、充分な効果が期待できるのか。

ヨーロッパの観光調査・研究機関、ETFI(European Tourism Futures Institute)の上級研究員であり、トラベル財団のレポート執筆者でもあるベルナデッタ・パップ氏は、6月にバルセロナで開かれたフォーカスライト・ヨーロッパで、関係者が一緒に、短期集中型で取り組むことが、全体の利益につながると話した。

「我々みんなが参加する必要がある。コラボレーションが必要だ」と同氏は会場で訴えた。「そうすれば、2050年までにネット・ゼロを実現することができ、観光産業としての責務を果たせる」。

だが簡単なことではない。同氏のレポートによると、目標達成には、脱炭素化の様々な取り組みに数兆ドル規模の投資が必要だ。少しぐらいの資金ではまったく足りない。同年までに見込まれている観光売上の少なくとも2~3%を投じる必要があるという。

特に、難しいチャレンジに直面しているのが航空業界で、カーボン・ニュートラルを実現するために大きな負担を迫られている。

同レポートでは、長距離フライトの規模について、航空産業が完全に脱炭素化できるまでは、2019年レベルを上限とするよう求めている。ニューヨーク/アテネ線などの長距離フライトは往復1万マイル以上の路線で、そのシェアは2019年の総便数の2%ほどだが、観光産業の排出ガス全体の19%を占めているからだ。もしこのまま何の制限も課されなければ、長距離フライトの数は、2050年までに4倍増となり、観光業の排出ガスに占めるシェアは41%になるとの予測だ。

難しい問題だが、この調査を担当した人々によると、気候変動の目標値を達成しながら旅行ビジネスが成長を続けること、すべてのステークホルダーにとってメリットがある方法は、これ以外にはないと結論付けている。

「もし、旅行に出かける先がもうない、あるいは、安全に滞在を楽しめる場所はなくなってしまったら、観光産業は存続できない。そうなれば経済発展が止まってしまう地域も多い」と同氏は指摘。「デスティネーションを気候変動リスクから守ること、地域の繁栄が続くことは、我々みんなにとって共通の関心事だと強調したい」。

政府や旅行関係企業は、対策に動き出している。なかでも欧州の国々では、ここ数年、鉄道利用の促進に力を入れている。オランダでは、環境問題を理由に、スキポール空港の発着便数に制限を設ける方針を発表。フランスでは、鉄道での移動時間が2時間半以下の区間では、短距離フライトの運航を一部、認めない方針を定めた。航空会社などは、持続可能な航空燃料に投資しており、こうした燃料の利用増を義務化する政府すらある。

オランダ政府観光局(NBTC)のストラテジスト、Ewout Versloot氏は「受け入れ地域側も企業も、規模に関係なく、よりサステナブルな未来を目指すようになった。小さな一歩を踏み出したばかりのところが多く、スピードも遅いが、前進には違いない」と話す。「こうした取り組みを見た地域や企業も、変革は可能だと考えるようになる。旅行者はサステナブルな選択肢を探すようになり、持続可能性を強化することが、業績アップにもつながる」。

行動しないことが負の影響を生む

ただし、「小さな一歩」のままでは、観光産業による排出ガスの実質ゼロ化までは到達できないだろう。Versloot 氏は、問題を解決できるテクノロジー登場を、ひたすら待つだけではないと、旅行業界に期待している。

「もちろんイノベーション、例えば持続可能な航空燃料などは大きな助けになる。しかし現時点では、気候変動が収まるほどの効果は期待できない。もう時間は無駄にできないので、他の解決策も同時に進めていかなくては」。

同氏が挙げた事例の一つは、EUで長年、議論されている「欧州の空の統一」だ。航空各社も賛同しており、航空路線や交通管制サービスを、各国ごとにバラバラに管理するのではなく、より効率的に展開できる。27カ国ごとに異なる航空管制ルールが混在する空の現状を整理し、再構築するべきだと指摘する。

「実現すれば、排出ガスは10%ほど削減できるのではないか。航空路線をもっと効率的なルートに整理するだけで済む」(同氏)。

だが、こうした空の政策に携わる関係者が一堂に会することや、実効性ある見直しに着手することは、まだ難しいようだ。

チリを拠点に、観光政策提言を行っている団体、Cuidadores de Destinos創業者のMarco Lucero氏は、コロナ禍で、旅行業界の協力が進んだことに希望を見出している。その中でまとまったグラスゴー宣言は、観光産業全体で気候変動対策に取り組むことを呼び掛けるもので、国連も賛同。この延長線上で、トラベル財団によるレポート作成も始まった。

「パンデミック下では、それまでとは違うコレボレーションが、地域内だけでなく世界規模で生まれた」とLucero氏。「世界中の人々が一緒に悩み、考え、未来のこと、我々はどこに向かっているのかと思案する時間を持つ機会になった。この業界では、初めて見る光景だった」。

「でもまだ充分ではない」とも同氏は付け加える。「グラスゴー宣言は素晴らしい第一歩となったが、さらに掘り下げていくべきだ」。

サンプソン氏は、業界全体で行動するという選択肢以外の方法については、むしろ否定的だ。日々、状況が悪化するなか、旅行市場の拡大を規制する必要があると政府当局が考えるかもしれない。あるいは、旅行価格が非常に高くなり、一部の富裕層しか手が届かない贅沢になってしまうかもしれない。旅行業を主な収入源としてきたデスティネーションへの打撃も危惧される。

例えば「カリブ海に誰も旅行しなくなるなんてあり得ない。だがもし、排出ガスやコスト高が理由で、カリブ海への航空路線が廃止されることになったらどうか。現地の人々はどうするだろう?」と同氏。

すべての地域に公平な気候変動対策(climate equity)を目指すことも、旅行業界が様子見を続けるのではなく、自ら能動的に動き、マーケットや政府の要望に応える必要があるとサンプソン氏が考える理由の一つだ。

「よく考えてほしい。ビジネスを継続できるし、気候変動に責任がある訳でもない地域社会や人々が、最終的に、この問題に起因するダメージを不当に被ることもない。だが、きちんと調整しながら進めないと、それが行きつく先になる」(同氏)。

トラベル財団やこれに賛同する団体では、気候変動に対するグローバル目標を達成すると同時に、観光産業が成長を続けられる行程作りに取り組んでいる。今夏から得た教訓は、横断的なアクションがこれまで以上に必要だということ。サンプソン氏は、このメッセージが届くようにと願っている。そうでなければ、ギリシャの島々で見る夕日の絶景から焼きマシュマロまで、旅がもたらす幸福感のほとんどが永遠に失われてしまう。

「これからも旅する人がいなくなることはないが、旅行のあり方は変えていく必要がある」とサンプソン氏。「変われるかどうか、ボールは旅行業界にある。自ら、変化を促すのか、息を潜めてじっとしているのか、どちらを選択するかだ」。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正規提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:CLIMATE DISASTERS RENEW FOCUS ON TRAVEL SUSTAINABILITY GOALS

著者:Derek Catron氏

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