山梨県は、県産食材を活用したガストロノミーツーリズムの促進に向けた取り組みを進めている。県では地域社会や環境に配慮したエシカル消費を重視。農畜産物でも独自の認定制度を制定するなど、食の安心安全と消費拡大の両輪で生産者の支援をおこなっている。その取り組みを観光に活かす手法とは?富士五湖周辺の山梨県らしい食材と生産現場などめぐる視察ツアーに参加して、その可能性を探ってみた。キーワードは「やまなしジビエ」と「アニマルウェルフェア」だ。
徹底管理されたシカ肉をジビエ料理に
山梨県は、2017年に生産者、加工業者、飲食店などを対象とした「やまなしジビエ認証制度」を制定した。増加するニホンジカによる食害対策と管理捕獲したニホンジカの肉の有効活用が目的だ。県では、駆除されるシカを食肉として活用し、町の新たな特産品やジビエ料理として観光と結びつける取り組みに力を入れている。
見学ツアーでは、その認証施設「富士河口湖町ジビエ処理加工施設」を訪れた。この施設では、捕獲されたシカの受入れ、解体、加工、保管、部分肉の販売などがおこなわれている。県のガイドラインでは、捕獲後2時間以内に施設に搬入することを求めているが、富士河口湖町ジビエ処理加工施設所長でジビエハンターでもある滝口雅博さんは「この地域では捕獲後30分以内の搬入が可能」と話す。
搬入されたシカは、解体後、数日熟成させ、部位に切り分ける。主力商品は背ロース。そのほか、モモ、コマ切れ、前足などが食用として販売される。施設で受け入れた個体には個体番号がつけられ、部位ごとに商品になっても捕獲状況が把握できるようにトレーサビリティを徹底。さらに、放射能検査、金属探知、細菌類検査なども実施し、衛生面、安全性で高いレベルで管理されている。
滝口さんは「シカ肉を使ってくれるお客さんの身になって、最高の肉を安く提供しています。『今日食べたシカ肉が、今ままで一番美味しかった』と言われれば嬉しいです」と話す。事業者への販売は、今では順番待ちの状況だという。
滝口さんは解体作業を行いながら、それぞれの部位の特徴を説明してくれた現在、富士屋ホテルなど宿泊施設にも卸しているが、その数は限定的。地元の富士河口湖町でシカ肉ジビエ料理を提供する宿泊施設が少ないことが普及に向けた課題になっているという。山梨県農政部販売・輸出支援課課長の柳澤幸喜さんは、「まずは、宿泊施設にシカ肉を体験してもらう機会を設けていきたい。現在は、県内でもその認知度を高めていく段階」との認識を示す。
アニマルウェルフェアで新たなプランド価値を
山梨県が、県産食材の普及に向けて重視している取り組みには「アニマルウェルフェア」もある。アニマルウェルフェアとは、家畜の快適性に配慮した飼養管理を行うこと。県は2021年に「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」を創設し、新たなプランド価値の創出と持続可能な畜産経営を目指している。現在、県内でアチーブメント(実績)認証されている農場は12戸。このほか、23戸が前段階のエフォート(取組)認証に認められている。
見学ツアーでは、実績認証されている牧場「Mt.Fuji Craft! Farm」を訪れた。この牧場では、自然放牧のブラウンスイス牛とブラウンスイスとホルスタインのミックス牛が心身ともに健康的に暮らしている。牛舎の入口は常時解放。牧場主の金子さおりさんによると、牛たちは自由意志で牛舎か牧草地で過ごすという。自由奔放に暮らす牛たちは愛嬌があり、人懐っこい。
「基本的に生乳のみを使います」と金子さん。季節によって味わいや香りが変化することが特徴で、その時期ならではの美味しさを楽しむことができるという。製造しているのは、モッツァレラ、フロマージュブラン、白カビのカマンベール、セミハードタイプのゴーダなど。このほかバターも作っている。
富士山麓に広がる「Mt.Fuji Craft! Farm」はいわゆる観光牧場ではないが、近くにキャンプ場もあることから、ふらっと立ち寄り、チーズを買い求める旅行者もいるという。
チーズはどれもクセない、優しい味わい
地産地消で山梨らしいガストロノミーを
昼食は、西湖湖畔にある「Restaurant SAI 燊」。シェフの豊島雅也さんは、富士山麓の食材をメインに自然からインスピレーションを受けた独創的な料理を提供している。見学ツアーでは、見学先のシカ肉やチーズに加え、山梨県産の肉、魚、野菜を使用した「1日限定の料理」を体験。また、料理1つひとつにあわせてソムリエが厳選した県産酒やノンアルコールドリンクとのペアリングを楽しんだ。
豊島さんの料理は独創的。フランスのレストランガイドブック「ゴ・エ・エミ」で何度も受賞歴がある
「富士河口湖町ジビエ処理加工施設」からのシカ肉は「鹿のパイ包 香茸ソース」、「Mt.Fuji Craft! Farm」からのチーズは「金子さんのカンマベールと柿」として提供。また、アニマルウェルフェア認証でアチーブメント認証を受けている「清泉寮ジャージー牧場」からは、ジャージー牛を使った「オーガニックジャージービーフ腿肉のロティ」が振舞われた。基本的には乳用牛であるジャージー牛は流通量が少ないく希少価値が高い。高タンパク低脂肪で、βカロチン、ヘム鉄、オレイン酸などの健康要素やイノシン酸やグルタミン酸などの旨味成分も含まれているという。
鹿のパイ包 香茸ソース
ノンアルコールドリンクは、ソムリエの永原有茶さんがハーブや果実などを掛け合わせ、料理に合わせた独創的なオリジナルドリンクを提供。春から夏は桜の葉、薔薇とブルーヘリー、夏はトマト、夏の終わりは花梨、ジュニバーベリー、酒粕など、秋は山草茶と、山梨の季節をストーリー化した。
山梨には、ニジマスとキングサーモンを掛け合わせた「富士の介」、甲州ワインビーフ、独自開発されたブドウ「サンシャインレッド」など県産食材は豊富に揃う。山梨県は、それらにシカ肉のジビエやアニマルウェアで飼育された畜産からの加工品を組み合わせた山梨らしいガストロノミーツーリズムの創出に意欲を示す。
山梨県の柳澤さんは、今回の見学ツアーについて「一義的には県産食材のPRだが、今後はもう少し規模を大きくして美食体験として観光と連携していきたい」と話す。観光コンテンツが多様な山梨県が、その魅力をどのように組み合わせて、商品化していくのか。今後の取り組みに注目したい。
トラベルジャーナリスト 山田友樹


