高速道路の渋滞は「観光」で減らせるか?「12%の時間分散」で生み出す地域経済効果【コラム】

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東京都立大学観光科学科教授の清水哲夫です。

夏休み前という時期でもありますので、今回のコラムは高速道路の渋滞問題と、その改善に向けて観光側で考えなければならないことについて論じます。

これまでにも筆者による複数の記事で訴えかけてきている内容ですが、より一般的な読者に分かりやすくかみ砕いて説明したいと思います。

なぜ、日本の高速道路は渋滞するのか

高速道路4社によるプレスリリースによると、2026年のゴールデンウィーク(GW)期間である12日間(4月25日~5月6日)で、10km以上の渋滞回数が287回、うち30km以上の渋滞が21回発生したそうです。前年の同期間と比べ7%程度減少していましたが、依然として深刻な状態といえます。最も長い渋滞は、5月2日(土)の午前9時に、中央自動車道下り上野原インターチェンジ付近を頭にした43.3kmでした。帰宅交通となる上り方向は、5月4日(月)の午後5時15分に関越自動車道川越インターチェンジ付近を頭にした43.2kmでした。GW期間に旅行をする大都市圏の住民は、行きも帰りも長い渋滞に巻き込まれるリスクが高い状態が続いています。

大都市近郊の高速道路では、このような渋滞が8月のお盆期間を挟む数週間、9月のシルバーウィーク期間、年末年始にも多発しているのに加え、通常の週末にもちょっとした渋滞が発生しています。私自身、交通学の専門家として、何十年も状況が変わっていないことに忸怩たる思いを抱いています。

高速道路での渋滞発生の原理は非常に単純です。高速道路区間である時間内で通過させられる交通量(交通容量といいます)に対して、それ以上の交通量が到達してしまうと、通過できない車両が道路上に滞留します。これにより速度が大きく低下すると、交通容量自体も小さくなってしまい、ますます滞留車両が増えていくことになります。これが渋滞の発生と延伸です。

一度発生した渋滞を消滅させるには、渋滞区間に流入する交通量が少なくなる時間帯がしばらく続くことが必要です。渋滞が40kmにまで延びてしまうと、流入交通量が劇的に少なくなる夜中になるまで継続することになります。

では、どんなところが渋滞の頭になりやすいのでしょうか。トンネル入口や長い下り坂の後の長い上り坂(サグといいます)が代表地点で、交通の専門用語ではこれらをボトルネックと呼んでいます。日本の高速道路は、人口密度の高い都市地域を避けるために、郊外の丘陵地帯や山間部に建設されることが多いのですが、これがトンネルやサグが増える要因になっています。まさに国土が狭く、森林面積の大きい日本の宿命と言えます。

ハード整備の限界の先にある解決のカギとは

もちろん、道路行政が渋滞問題を放置してきた訳ではなく、渋滞区間で車線数を増やしてきました。しかし、その結果、別の交通容量が小さい区間が混雑することとなり、まさにモグラたたきの様相を呈することになりました。これに加えて、環状線整備などを通じて高速道路ネットワークは拡充されましたが、逆にジャンクション部で大きな渋滞が発生するようになってしまいました。要するに、よかれと思って高速道路ネットワークを充実しても渋滞がより発生する、パラドックスのような状況に陥っているわけです。

一度発生した渋滞を解消するのに、ひどい場合には8時間から半日程度かかってしまう。この状態を発生させないようにするためには、「最初に渋滞させないこと」が唯一の解決策だと私は考えています。渋滞は到着交通量がボトルネックの交通容量以上になることで発生するため、到着交通量を交通容量以下に保つことができれば、論理的には渋滞が発生しません。とはいえ、そんなことが実際に可能なのでしょうか?

交通学の専門家は、渋滞は10%の超過需要で発生しているとの認識を持っています。すなわち、混雑する時間で、到着交通量の10%がいなくなればいいわけです。もしこの10%がより長く目的地に留まってくれたら、と考えるとどうでしょうか。

詳細は省きますが、いくつかの調査結果から推測すると、休日の高速道路で、観光・レジャーや帰省・親戚訪問・友人訪問などの非業務目的で利用する割合は、全交通量のうち85%程度。そのため、より正確に説明すれば、非業務目的利用者のうちの約12%(全体交通量の10%相当)に、利用時刻の変更に協力してもらう必要があります。高速道路沿線の観光地では、連休終盤や日曜日の夕方から夜にかけて、この12%をとどめていただきたいものです。

これを車両の台数ベースで試算してみると、首都圏で考えれば、中央自動車道や関越自動車道などで、たとえば午後3時から4時間の間、車線数にもよりますが、1万5000〜2万台の到着交通量があると予想されるため、そのうちの12%である2000〜2500台を各高速道路の沿線観光地で吸収できればいいわけです。

もちろん、もう一泊して次の日にゆっくり帰ってもらえれば、渋滞の緩和とともにより多くの経済効果が期待できるはずです。しかし、現実には、多くの利用者にとって勤務や学校のスケジュールの制約があり、簡単なことではないでしょう。

脈あり層をねらう地域の仕掛け

こうしたさまざまな制約に目を向けると、やはり、大半の観光客・利用者はその日に帰ることを前提に対策を考える必要がありそうです。まずは、脈のありそうな利用者層を見極める必要があります。まず、小さい子ども連れファミリー層の利用者、翌日に朝早く出勤しなければならない利用者は、遅く帰宅することが難しいでしょうから、これら属性はターゲットから外します。

次に、渋滞が想定される区間の上流側に位置する沿線観光地では、美術館・博物館、温浴施設、飲食店、物販店に対し、たとえば21時まで営業してもらったり、夜の魅力的なアクティビティコンテンツを導入してもらったりする必要があります。観光地での働き方を変えてもらうことにもつながりますが、それを補って余りある経済効果が期待できるはずです。

しかしながら、このように単にコンテンツだけを整備しても、2000〜2500台分が立ち寄ってくれることが期待できないケースもありうるでしょう。そこで、高速道路とアクティビティや飲食・物販の特典がセットになっている企画周遊券を提供し、高速道路の入口を通過した時刻に応じて大きな高速道路料金割引が適用されるような仕組みを考えたいところです。現在のETCの技術的な制約で実装が難しい場合には、特典を提供する事業者が割引を実施し、それをNEXCO各社が補填するような仕組みも有効ではないでしょうか。

現在、深刻な渋滞が発生する区間の一つとして知られる中央自動車道上り線小仏トンネルでは拡幅事業がおこなわれています。遅くとも数年以内の供用開始が計画されていますが、1車線を付加するだけなので、抜本的解決にはならないかもしれません。また、東名高速道路の大和トンネル付近でも拡幅工事が進行していますが、残念ながらこれも抜本的解決につながるかは何とも言えません。

このような対策自体を否定するわけではありません。根本的な対策として必要であり、地域の建設業の維持にも重要だと考えていますが、一部の高速道路利用者が利用時刻を変更する協力をおこなう(もちろんインセンティブの付与は欠かせません)ことで渋滞が緩和され、それを観光地が受け入れることができれば、追加的な経済効果が得られる。このような仕組みも同時に実装したいものです。

清水哲夫(しみず てつお)

清水哲夫(しみず てつお)

東京都立大学都市環境学部観光科学科教授、博士(工学)。クロスアポイントメント制度で金沢大学先端観光科学研究所特任教授を併任。非常勤で日本観光振興協会総合調査研究所所長を務める。土木計画学が専門で、観光分野におけるデータサイエンス×観光地域づくり×モビリティマネジメントの領域で研究・実践活動を展開する。

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