昭和を代表する大型温泉ホテルはどう変わるのか? 「ホテル浦島」が40億円投資で大規模改装、その戦略を取材した

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和歌山県那智勝浦町の「ホテル浦島」は、2026年8月1日に「日昇館」をリニューアルオープンした。2026年12月に迎える開業70周年に向け、客室やレストランを刷新したほか、本館ロビーや館内動線の機能向上、DXなども進めた。その投資額は約40億円。その狙いと今後の成長戦略を取材した。

熊野灘の荒波が生み出した天然洞窟風呂「忘帰洞」で知られるホテル浦島は、山上館、日昇館、なぎさ館、本館の4館で構成される総客室数365室の大型温泉リゾート。昭和の観光ブームに沸き、その後も関西・中部圏、特に団塊世代の団体旅行や家族旅行を中心に絶大な人気を誇ってきた。2023年12月には、日本共創プラットフォーム(JPiX)が創業家から浦島観光ホテル社の全株式を取得。ホテル浦島では、JPiXとともに現在の旅行者に対応する大規模リニューアル計画を数年にわたって進めている。

地域から高まる期待、「勝浦温泉といえば浦島」

リニューアルオープンに先立って開かれた記念式典には、和歌山県の宮﨑泉知事、那智勝浦町の堀順一郎町長らが出席した。

宮﨑知事は、ホテル浦島が70年にわたって地域の観光・宿泊産業をけん引してきたことに敬意を示したうえで、施設やサービスの高付加価値化とともに賃上げなど人材への投資をおこなっている点を「まさに的を射た対応」と評価。県としてもデジタル技術やデータ活用を通じた「稼ぐ観光」に力を入れる方針を示し、忘帰洞をはじめとする温泉についても「県外、そして国外へ売っていける存在」と期待を寄せた。

堀町長は「勝浦温泉といえば浦島、浦島といえば勝浦温泉」と、地域におけるホテルの存在感を強調。現在、那智勝浦でインバウンド宿泊客が増加していることにも触れながら、さらなる成長に期待を示した。

親会社の日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役会長CEOの冨山和彦氏は、今回のリニューアルをホテルの従業員、経営陣、JPiXが知恵を出し合った「結晶」と自信を示した。そして、地方企業の経営では「10年後、20年後、30年後に何が残るのか」という長い時間軸が重要だとし、南紀地域全体の振興に継続して取り組む考えを示した。JPiXは2023年に南紀白浜空港を運営する南紀白浜エアポートの株式93.3%を取得し、空港をハブとした周遊観光など、南紀エリア全体の活性化を視野に入れた事業経営を進めている。

リニューアルの記念式典には、地域自治体トップも集まった

4館のポジショニングを明確化

浦島観光ホテルの松下哲也社長は、ホテル全体のリニューアルを通して巨大ホテルを構成する4館それぞれのポジショニングの明確化を目指す。これまで館ごとの価格帯が近づき、宿泊商品同士が競合する状況も生まれていたことから、「しっかり棲み分けて、ターゲティングもしたうえで提供する」と話す。

最上位に位置づけるのは、海抜約80メートルの山上館。その次に、今回リニューアルした日昇館を置く。一方、日昇館でもフロアや客室カテゴリーによって価格差を設け、特に7、8階の上位客室は山上館に近い水準まで引き上げる。このため、今後は山上館をさらに高付加価値化し、館同士の競合を避けながら全体の価格構成を再設計するという。

日昇館のリニューアルでは、和室の一部にベッドを導入した。現在のインバウンド比率は2~3割程度だが、今回のベッド化はインバウンドだけを狙ったものではなく、国内のシニア需要への対応という意味合いが大きい。松下氏は「足や腰が悪い方にとって、布団に寝るのは難しい。特に平日のツアーは年齢層が高く、ベッドの需要が大きい」と説明する。旅行会社からの要望も多かったという。

ベッドを導入することで、客室定員は従来の4~5人から3人程度に変更。対象客室の定員は、全体で約24%減少した。実際の1室あたり利用人数は約2.3人であることから、定員を減らしても需要への影響は限定的と判断した。 

一方で、3、4階には和室を残した。「すべてベッドのホテルにする考えはない。小さな子どもを寝かせたり、赤ちゃんがハイハイできる和室の良さもある」とし、客層に応じた選択肢を維持する。

「ホテル浦島は4つの館があり、4つのホテルを運営しているのと変わらない規模。定員の多い部屋は、なぎさ館や本館を提案できる。いろいろな選択肢を持てることが最大のメリット」と松下氏。同じ敷地内に性格の異なる宿泊商品を持つ強みを生かしていく。今後はインバウンド比率をさらに高め、国内では首都圏からの集客にも伸びしろがあるとみている。

ベッドを導入した日昇館の客室。窓の外には熊野灘の絶景が広がる


AIを活用した業務改善、スタッフの賃上げにつなぐ

また、施設への投資と並行して業務効率化と、サービスの高付加価値化を両輪で進め、収益力の向上を賃上げや人材投資につなげる好循環を目指す。

業務効率化に向けたDXの一例としては、本館ロビーに自動チェックイン機を導入した。一方で、広大な館内の案内は、宿泊客の目線にあわせて従来通りフロントスタッフがおこなう。松下氏は「人が必要なこと、そうでない業務をしっかり仕分ける」と説明。省力化によって生み出した人や時間を「おもてなしで人がやる意味を持つところにエネルギーを使っていきたい」とし、接客や顧客とのコミュニケーションに振り向ける考えだ。

その次の段階として見据えるのが、AIを活用した業務変革、いわゆるAXだ。記念式典後の会見でJPiXの冨山氏は「ホワイトカラー的なデスクワークはできるだけAIにまかせ、接客や滞在の価値を感じられるところに人を集中していく」と説明した。AIの進化によって現場への導入のハードルも下がりつつあり、幅広い年代の従業員が活用できれば、従業員の高齢化への対応にもつながるとみている。 

そして、高付加価値化や省力化への投資をスタッフの賃上げにつなぐ。浦島観光ホテルは2024年に一般社員を対象に10%の賃上げを実施。今回の大規模改修では、経済産業省の補助金も活用している。松下氏は「3年間で20%の賃上げを目指している」と説明した。人手不足が進むなかで宿泊業を働く人から選ばれる産業にするため、処遇改善と生産性向上を同時に進める方針だ。

リニューアルしたホテル浦島の本館ロビー。自動チェックイン機とセルフロッカーの導入で、チェックイン・チェックアウト前後の顧客の行動にゆとりが生まれた

本館と日昇館・なぎさ館を結ぶ約90メートルの通路を海中をイメージした「うみのトンネル」に刷新。地酒や梅酒、みかんジュースを楽しめる「海中スタンドバー」やショップなどを設け、単なる移動空間から館内体験の一部へと転換

食の高付加価値化、次の成長投資へ

高付加価値化の大きな柱のひとつが「食」のリニューアルだ。日昇館のメインダイニング「Chef’s Live Kitchen URASHIMA」は、太平洋を望む空間にライブキッチンを設けブッフェカウンターを展開。地元の生マグロなどを前面に打ち出した。紀州の食材とゲストをつなぐ「TSUMUGI」をコンセプトに掲げている。

松下氏が特に意識したのは、料理を目にした瞬間のワクワク感。従来は料理が並ぶだけだったブッフェをエリアごとに区分し、それぞれのエリアにストーリーを持たせた。なかでも「最大の売り」であるマグロのスペースを広く取ったことは、念願だったという。さらに、今回の取り組みについて「レストランのリニューアルというより、完全なリブランド」と強調し、「温泉とともに過ごす時間を作り、熊野を含めて『和歌山はおいしい』ということをもっと伝えたい」と話した。

新たな日昇館のメインダイニング「Chef’s Live Kitchen URASHIMA」今後は、リニューアル後の施設をどの顧客層に、どの価格で販売するかが焦点となる。松下氏は「それぞれのターゲットをリサーチしながら、価格と部屋を当てていくことが新しい仕事になる」と話し、「稼働率も単価も両方上げ、客室1室あたりの収益(RevPAR)を上げる」と明言する。

滞在日数の延長も課題だ。現状では1泊が中心だが、館内に複数のレストランを持つ強みを生かし、1泊目と2泊目で食事会場を変えるなど連泊向けの商品づくりを進める。

松下氏によると、ホテル全体のRevPARは自身の就任以降、約2年半で約1万円上昇した。今回リニューアルした日昇館では、食や地域の魅力、サービスなどをさらに磨くことで「まだ伸びしろはある」 と意欲を示す。

リニューアルを「新しい出発点」と位置づけ、日昇館で得た成果を次の投資へつなげ、ホテル浦島の高付加価値化を段階的に進めていく考えだ。

浦島観光ホテル代表取締役社長の松下哲也氏。リニューアルしたレストランで撮影

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