ライドシェア解禁のメリットと懸念点を整理した、議論を「地域の交通体系を再構築」する契機に【コラム】

こんにちは。観光政策研究者の山田雄一です。

ライドシェア解禁に向けての議論が、急速に表に出てくるようになりました。

実際に解禁されるかどうかは、政治状況によるところが多いのですが、海外でライドシェアを利用した筆者の経験から言えば、ぜひ、日本でも導入してほしいと思っています。

私が先日訪れたニュージーランドでは、空港の交通広場の一角(外れの方)に、アプリ配車専用のピックアップエリアとドロップオフエリアが設けられていました。通常のタクシーやバスは、より中央の便利なところに設置されているので差別化はされているものの、公共交通の一つとして社会的認知が進んでいるということでしょう。

今回のコラムでは、日本におけるライドシェアサービス解禁の論点などを整理してみたいと思います。

反対意見のポイントは2つ

日本でのライドシェア導入に対する反対意見の大きなポイントは2つあるようです。

1つは、安全性が確保できなくなるということ。もう1つは、「既存の交通体系を破壊するだろう」ということ。

前者については、運転手の問題と車両の問題がありますが、高齢者が(安全装置も備わっていないような)古い車両で運転するのと、ライドシェアをやろうと思う人材が新型の車両(ライドシェアは通常、車両が選べる)でおこなうのとでは、どこまで違うのか?とも思います。しかも、ライドシェアの運転手は稼働するたびに評価されるため、乱暴な運転、雑な運転、危険な運転をすれば評価が下がります。タクシーにも同様の「通報」システムはありますが、それより遥かに直接的だと言えます。

もっとも、車両は個人の所有物ですから、意図的に何かしようとされたら防ぎにくいというは確かです。例えば、車内に隠しカメラのようなものを設置されるのでは? などという懸念を持たれることも容易に想像できます。これは、個人タクシーでも同様ですが、個人タクシーのライセンスと天秤をかければ、安易な行動はしないのでは(…という期待を持つことができます)。

細かくリスクの差をみていけば、他にも出てくると思われますが、今回の話はフルサービスキャリア(FSC)とLCCの違いみたいなもので、「価格差でどこまでリスクを担うのか」という話になると考えられます。言い方を変えれば、利用者が両者をどのように捉え、選択するのかと、いう話になります。

また、これは2つ目のポイントにも関連してきます。確かに、安価な交通サービスが入ってくれば、需要はタクシーからライドシェアに移るでしょう。ただ、ライドシェアを使うには、クレジットカードとスマホをコンビで使う必要があり、これがそれなりのハードルになる可能性があります。

幸か不幸か、日本のDXは遅滞しており、特に地方&高齢者となると、このハードルを越えるのはかなり厳しいでしょう。昨今のマイナンバー騒動なども、その一端を示しています。その状況でライドシェアが入ってきても、相当数の高齢者は、タクシーを使い続けることになるのではないでしょうか。

また、技術的、能力的には対応できても「面倒だからいやだ」という人も出てくるでしょう。特に、いわゆる富裕層では、ホテルのコンシェルジュなどにタクシーを配車してもらうほうが良いと思う方も少なくないはずです。移動だけならLCCでも良いけど、FSCをあえて選好するのと同様です。

その他、精算の問題のため、企業によっては業務利用を許さない場合も多いと思われます。特に公務などでは影響を受けるかもしれません。この辺は、早晩、プラットフォーマーが対応してくることになるでしょうが、それでも、それなりの時間がかかることになります。

運転手の立場でも違いがあります。既にウーバーイーツで明らかになっていますが、ライドシェアで「一定の収入を確保し続ける」というのは、非常に難易度が高いと言えます。なぜなら、運転手が増えれば価格が下がってしまうからです。基本的に、個人事業者として委託される立場ですから、各種社会保険の問題も大きいでしょう。現実的には、何かしら本業がある人が副業でおこない、それも、需要が高い特定の日時や天候にピンポイントで対応するという話になるのかもしません(例:金曜日の夜で、降雨)。要はスキマ時間のお小遣い稼ぎ以上の収入とはならないため、労働力の大規模が移動が起きるとも思えません。

その一方で、稼げるタイミングは、タクシーの供給量をオーバーしているタイミングとも重なり、おそらくは、タクシー以上の料金(待たなくても乗れるプレミア)設定となるから、需要がライドシェアに完全スライドするとも考えにくいでしょう。

そういったことを考えれば、ライドシェアが入ってきたからといって、タクシーが全滅するという話にはならないと言えるのではないでしょうか。実際、海外でもタクシーのサービスは残っています。むしろ、あえてタクシーを選好する人からすれば、利便性高く使える状況になるかもしれません。

ニュージーランドの空港交通広場のサイン。右下にアプリ配車の記述がある(NZウェリントン空港/2023年10月2日筆者撮影)

ライドシェア解禁だけをやるのは反対

ただし、ライドシェアを解禁するというのであれば、全体の体系についても作り直す必要があります。

例えば、現在、特に訪日客対応ではびこっているという「白タク」については、白タクの基準を明確にして、罰則強化を含めた取締りが必要となります。これは、民泊を法制化したことで、住宅と宿泊施設のあいだにあったグレーゾーンを解消した顛末と同様です。

ライドシェアは、その構造上、必ずプラットフォーマーと紐づけされます。そのため、プラットフォーマーを通じて車両と個人、運行状況が確認できます。そうやって、ライドシェアを「管理された状態」で解禁する一方で、その枠外となる白タクについては、徹底的に駆逐するという姿勢が必要となるでしょう。

その上で、ライドシェアは強い競争力をもちますが、それだけで、地域交通を支えることは困難です。前述したように、ライドシェアしかない世界は、高齢者などにとって住み心地がよいものではないはずです。そのため、例えばプラットフォーマーに課税をし、それを原資に路線バスなどの維持・拡充に取り組むという仕掛けも検討したいところです。

仮にこうした仕掛けが実現できれば、「ライドシェアが盛んになればなるほど、それを補完する交通サービスも拡充できる」という仕組みを作ることができます。プラットフォーマーの数は、おそらく片手くらいしか出てこないでしょうから、解禁の条件として課税を付与することのハードルも低いはずです。

場合によっては、観光地において、こういう体系の見直しに合わせて、レンタカーやカーシェアについても一定の課税をおこなうということも考えられるでしょう。レンタカーについては、事業者数が多いし、既に事業が動いているのでハードルは高いのですが、一考の価値はあるのではないでしょうか。

また、タクシー会社に義務付けている各種の規則についても、見直しが必要になるでしょう。もちろん、必要な規則は残すことが絶対条件となりますが、DXによって省力化できる分野も多くあるのではないでしょうか。安全性確保のために車両整備の基準や、保険の水準については、タクシーもライドシェアも合わせる必要があるでしょう。さらに、公共交通として負わされている「乗車拒否してはいけない」みたいなハードルや、固定的な料金体系も見直すことが必要になるかもしれません。

さらに、スイスなどでは、宿泊税を原資に地域の路線バスなどを無料開放している都市リゾートが複数あります。これによって、観光客の利便性を高めるだけでなく、環境負荷の低減、渋滞の緩和などを実現しています。しかも、地域内に交通事業者を温存することは、MICEの展開において有利となります。日本においても観光リゾート地では、ライドシェアに過度に依存せず、全体の交通体系をしっかりと規定し、その構想をもって展開していくことが必要です。

そのためには、特定民泊でそうしたように、国が一定の基準を作った上で、地方が「基準の上乗せ」をできるようにする検討も求められます。

いずれにしても、ライドシェアだけがOKになるという事態は、避けるべきと考えます。むしろ、ライドシェアという選択肢を得たという立場から、地域交通の全体体系を考え、それに必要な法的措置(例:ライドシェアに対する課税)を考えていくことが必要だと思っています。

環境変化への対応

私は、これからの意思決定は「利用者の立場から考える」ことが重要だと思っています。供給側の都合で押し留めても、結局、人の嗜好の変化を止めることはできません。モータリゼーションもそうですし、大型ショッピングセンターへの移行、旅行エージェントからOTAへの移行などなど、多くの先例が示すとおりです。

ただ、そうした変化が起きたからといって、全てが変わるわけではありません。ウォーカブルな街が注目されているように、価値観の「揺れ戻し」も起きてくるのです。

ライドシェアが入っても、それを好まない人はいます。タクシー側は、そうした人たちから、自身が選好されるようなマーケティングを展開していくことで、一定のプレゼンスを維持していくように取り組んでいこう、と思うことが重要なのではないでしょうか。

バイトが対応するのと、本職のプロが対応するもの。両者には、明確な違いがあり、それをしっかりと示していくことが求められていると思っています。

※編集部注:この解説コラム記事は、執筆者との提携のもと、当編集部で一部編集して掲載しました。本記事の初出は、下記ウェブサイトです。なお、本稿は筆者個人の意見として執筆したもので、所属組織としての発表ではありません。

出典:DISCUSSION OF DESTINATION BRANDING. 「ライドシェアをきっかけに交通を再考する」 

原著掲載日: 2023年10月18日

山田 雄一(やまだ ゆういち)

山田 雄一(やまだ ゆういち)

公益財団法人日本交通公社 理事/観光研究部長/旅の図書館長 主席研究員/博士(社会工学)。建設業界勤務を経て、同財団研究員に就任。その後、観光庁や省庁などの公職・委員、複数大学における不動産・観光関連学部などでの職務を多数歴任。著者や論文、講演多数。現在は「地域ブランディング」を専門領域に調査研究に取り組んでいる。

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