高付加価値を目指すには発想の転換を、有識者の提言を聞いてきた、宿泊税のあり方やDMOに求められる役割も

日本経済を支え、長期的成長を見込める基幹産業と期待されながらも、観光産業は賃金水準や労働生産性が他産業分野に比べて低い状況が続いている。運輸総合研究所は2023年7月、宿泊事業を始めとする地域観光産業の生産性や賃金水準を高めるための提言をおこない、10月には提言の検討に携わった有識者による「地域観光シンポジウム」を開催した。地域観光産業が日本経済を支える高生産・高所得な産業となるためには何が必要なのか、有識者たちの意見から探る。

宿泊税は定額より定率を、使途の明確化が不可欠

提言をまとめた契機として、運輸総合研究所(運輸総研)の宿利正史所長は「元々低いと指摘されていた日本の地域観光産業の生産性が、コロナ禍で著しく脆弱化したことへの危機感」を挙げた。宿利氏は「厳しい言い方だが、日本の観光政策の中で産業政策はほとんどなかったに等しいのでは」と疑問を投げかけ、「今こそ国策として地域観光産業を不可欠な基幹産業と位置づけ、取り組みを集中的に官民で行うことが必要」と力を込めた。

基調講演に登壇したセントラルフロリダ大学ローゼンホスピタリテイ経営学部テニュア付准教授の原忠之氏は、観光産業の高生産・高所得化の事例としてフロリダ州オーランドを挙げた。オーランド州では、1970年代のオイルショックで苦境に陥ったホテル業界が新たな客層開拓のため、地元政府に陳情したことが契機でDMOが設立された。1978年に導入された宿泊税は、DMOの運営と地域観光産業の育成に充てられている。

原氏は「宿泊税は導入当初から一般予算とは別会計で、自主財源として使途が限られる」として、こう述べた。「最近、日本も宿泊税を導入する地方自治体が増えているが、一般財源として使われないよう、あらかじめ使途を明記することが観光振興には不可欠」。

宿泊税の課税方法には1泊あたりの金額を定める定額制と、1泊あたりの料金に対して定率を定める定率制があるが、原氏は「客室数が10万室で定額制の東京都は、2019年度の宿泊税収が29億円なのに対し、9万3000室のオーランド州は定率制で同年度の宿泊税収は約14倍の418億円を得ている」として定率制の導入メリットを強調した。

高付加価値化へ「原価積み上げ」発想から脱却すべき

一橋大学名誉教授の山内弘隆氏が進行役を務め、基調講演者の原氏を含めたパネリスト6名により、3つのテーマでパネルディスカッションがおこなわれた。1つ目の「産業政策の必要性」では、日本共創プラットフォーム代表取締役社長の冨山和彦氏が、日本の観光産業の従事者が500万人を超え、自動車産業と同規模であると指摘した。

冨山氏は「今後の可能性が製造業を大きく上回る観光産業を、成長戦略の中心に据えるべき」として、「多様な機能の組み合わせで成り立つ地域観光産業には、全体をコーディネートする産業政策が必要」と話した。

「高付加価値・高単価を目指すには発想の転換が必要」と提言したのは公益財団法人日本交通公社観光研究部長の山田雄一氏だ。

「観光の世界は、顧客がサービスや経験の価値をどう考えるかで価格が決まり、原価をいくらかけたかは関係がない。まず経営者が、高い単価を取るには高いコストが必要という製造業的な『原価積み上げ式』の発想から脱却しないと、観光産業の生産性や付加価値はいつまでも上がらない」として、観光の産業政策についても、こうした製造業的発想からの転換が求められると強調した。

「円満な退出」を促す、新陳代謝の後押しも必要

2つ目のテーマ「地域観光産業の生産性向上」では、産業内の新陳代謝を促す声が上がった。冨山氏は「今の観光業は企業数が多すぎる。補助金などで全てを延命するよりも、穏やかに再編の背中を押す仕組みを整えることが大事」として「新しいビジネスモデルへの円滑な人材移動を促すことで、結果的に付加価値労働生産性の高い企業が残ることになる。これは一番地に足がついた生産性向上の方策」との考えを示した。

一橋大学大学院経営管理研究科教授の西野和美氏は、管理会計の重要性を指摘。「管理会計を導入しておらず、どれだけのコストで回しているかを把握していない企業が観光産業には多い。付加価値労働生産性を向上させるには、まず現状を把握し、より効率的な仕事のやり方に変えていくことが不可欠」と述べた。

じゃらんリサーチセンター長の沢登次彦氏は、中小事業者へのテクノロジー導入がカギになるとして「裏方業務の省力化により顧客接客の密度を上げ、高単価を目指す体制を、地域全体で作れるようDMOがマネジメントできれば理想。まずは成功モデルを生むことが大事」と話し、「生産性を高めることがゴールではなく、生まれた収益を従業員の待遇改善につなげることが最も重要」と強調した。

観光の重要性を地域に啓蒙することがDMOの役割

3つ目のテーマである「DMOの本来機能の発揮」では、原氏は地域住民とのコミュニケーションを挙げた。「アメリカのDMOは地域住民に観光の重要性を啓蒙することが使命。対外的マーケティングを重視する日本のDMOには、この視点が抜けている」と述べた。

原氏は「コロナ禍のようなネガティブな状況にこそ、リーダーシップを発揮して関係者をまとめるのがDMOの役割」として、リーマンショックで観光需要が落ち込んだ時、オーランド州ではDMOの主導で宿泊業界は3泊で1泊無料、飲食業界は大人同伴の18歳以下は無料とするキャンペーンをおこない、補助金に頼らず需要を回復した事例を挙げた。

提言書のまとめを担当した運輸総研特任研究員の城福健陽氏は「日本版DMOを設立した当時、どんな役割を持った組織かを、国から十分には教えていただけなかった。国が一定の方向性を明確に示さないと、自治体もついていけない部分がある」と京都府副知事を務めた経験から率直に語り、「現在全国にあるDMOは観光圏整備法の中に位置づけ、誰にでも役割がわかるよう、権限機能を明確にすることが必要ではないか」と述べた。

運輸総合研究所が発表した提言内容の詳細は以下から参照できる。

運輸総合研究所「地域観光産業の基盤強化・事業革新に関する検討委員会<提言>『〜地域観光産業を高生産性で高所得産業に〜』」(PDFファイル)

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…