インバウンド消費拡大のカギを握る観光ガイド、本音で語った観光事業者への要望から課題まで、日本政府観光局のフォーラムを取材した

日本政府観光局(JNTO)は、先ごろ「第28回JNTOインバウンド旅行振興フォーラム」を開催した。高付加価値旅行におけるガイドの力にフォーカスしたパネルディスカッションでは、全国通訳案内士の曽我悠氏と伊藤えりか氏、JAPAN PRIVATE TOUR(JPT)のラフマン・アフラ氏、石川県国際観光課長の北口義一氏が登壇。高付加価値旅行者のトレンド、ガイドの役割、観光事業者や自治体・DMOとの連携などについて意見を交わした。

高付加価値旅行者の傾向とは?

JNTOは消費額100万円以上をインバウンド高付加価値旅行者と定義している。そのなかで、ガイドが接している高付加価値旅行者の傾向は、具体的にどうか?

JPTのラフマン氏は、「お金があっても簡単には手に入らないものを求める旅行者」と話し、希少性や特別性に価値を感じているとした。

全国通訳案内士の曽我氏は、ガイドの経験から、「タイムパフォーマンスに敏感で、自分たちの判断基準を持っている人」と説明。そのうえで、必ずしも高額なものではなく、感性に合う本物を求める傾向があることから、「ガイドは、それを察知して提案することが求められていると思う」と続けた。

全国通訳案内士の伊藤氏は「せっかちな人が多い気がする」との印象を述べたうえで、「その時、その時の状況に合わせて、対応する必要がある」と続けた。

石川県の北口氏は、石川県の特徴として、伝統工芸などの工房を訪ねて、人間国宝などの人生観や価値観に触れたいと思っている高付加価値旅行者が多いとし、「DMC、ガイド、行政とのネットワークを地域で作り上げないと、価値のあるものを提供するのは難しい」と考えを展開した。

ガイドに求められる役割は?

4氏は、ガイドの役割についても意見交換した。

曽我氏は、ガイドの大きな役割の一つは「旅行者を高付加価値旅行者にトランスフォームしていくこと」を挙げた。「教養のある人たちが多いので、一人一人の感性に深く届くような旅にガイドが導いていくと、ふとした瞬間に、モノの見方が急に変わることがある」と話し、その変容が消費につながることもあるとした。

ラフマン氏は「やはり人間性。一緒に旅をしていて楽しいと思ってもらうことが大事ではないか」と話した。それに対して、曽我氏は、「旅行者が楽しいと思うと、受け入れ側の地域の喜びにもなり、精神的にも経済的にも潤いになる。それがリピーターや次の旅行者にもつながっていく」と続けた。

また、ラフマン氏は、ガイドが自ら情報を提供するだけでなく、地域と旅行者をつなぐ役割も必要との考えを示した。

伊藤氏は、旅行者と受け入れ側との気持ちの温度差について言及。三重県津市在住の伊藤氏が主に担当する伊勢志摩エリアへは、旅程の途中で立ち寄ることが多いという。すでに日本についての知識があり、体力的にも疲れているケースも見受けられることから「心の調整役としての役割を大切にしている」と話した。

(左から)モデレーターを務めたJNTO藤内大輔氏、ラフマン氏、曽我氏、伊藤氏、北口氏

ガイドから観光事業者への要望は?

ガイドと観光事業者との連携について、伊藤氏はローカルガイドの立場から「旅程全体の共有」を求めた。伊藤氏は、旅程全体に同行するスルーガイドではないため、その前後の旅程について把握できていない場合がある。例えば、伊藤氏が案内する伊勢志摩の場合は、伊勢神宮がメインとなるが、それ以前に神社仏閣をめぐっていれば、旅行者の関心が薄れている可能性があるという。前後の旅程を把握できていれば、旅行者にあわせたより適切な対応が可能になると指摘した。

曽我氏は、DMCや事業者に対して、「ガイドを一緒に価値を作っていくパートナーとして見てほしい」と要望した。例えばガイドが自ら視察して開拓した内容が無断で2次利用されるケースが見られると明かす。「時間と労力をかけて積み上げてきたガイドの資産を利用する場合には、何らかの支払いの仕組みを考えてもらいたい」と話し、それが優秀なガイド人材の確保にもつながるとの考えを示した。

不可欠な自治体やDMOとの連携

このほか、ガイドと自治体・DMOとの関係についても意見交換。石川県の北口氏は、「いくら良いコンテンツが提供できても、一緒にずっと付き添うガイドが、その魅力をうまく伝えられなければ、すべて水の泡になってしまう」と話し、ガイドの重要性を強調した。

そのうえで、高付加価値旅行に対応できるガイド不足が北陸の課題と指摘。昨年から、観光庁の支援で北陸3県で高付加価値旅行のガイド育成プログラムを始めたことを紹介した。

伊藤氏は「行政と同じ方向を見て、ガイドするということは非常に大切なこと」と話し、連携強化を呼びかけた。

また、曽我氏は、ガイドをツアー以外の業務に巻き込んでいくことを提案。「おそらく、旅行者の一番近くにいるガイドは、一番ノウハウを持っていると思う。それをどんどん活用する機会があればいいのでは」と提案し、その例として、閑散期のコンテンツの磨き上げやストーリー作りの支援などを挙げた。

それを受けて、北口氏は「高付加価値旅行の誘致で大切なのは、地域への経済効果。ガイドのアドバイスは、消費効果を高めるためにも、観光事業者にとって大切なこと」と話した。

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