国際的なサステナブル観光の基準策定を担うグローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)による「グローバル・サステナブル・ツーリズム・カンファレンス2026(GSTC2026)」が2026年4月21日にタイ・プーケットで開幕した。同会議は持続可能な観光に特化した世界最大規模の国際会議で、観光産業の関係者や行政担当者、専門家らが集結した。今年は50人を超えるスピーカーが登壇し、55カ国から過去最多となる550人以上が参加している。
GSTCは、持続可能な観光に関する国際的な標準(GSTCクライテリア)の設定・管理と認定、持続可能な観光に取り組む人材の育成などを行う非営利団体。
※写真:開幕式の様子。ロイヤルプーケットシティホテルとコートヤード・バイ・マリオット・プーケットタウンの2会場で開催
ホスト国となるタイ国政府観光庁(TAT)のターパニー・キアットパイブーン総裁は、「持続可能性を“複雑で困難なもの”から“実践可能で影響力のあるもの”へと転換することが本会議の目的だ」と、その意義を強調した。
ターパニー・キアットパイブーンTAT総裁
観光は回復したが、地政学リスクと環境課題が顕在化
オープニングでは、GSTCのルイージ・カブリーニ会長が、2025年末時点で国際観光客数がコロナ禍前の水準を上回ったことに触れ、「観光は雇用を生み、地域開発を支える不可欠な産業として完全に回復した」と強調した。一方で、中東などでの紛争にも言及し、「観光は平和を促進する力を持つが、同時に平和がなければ成り立たない産業でもある」と述べ、地政学リスクへの懸念を示した。
さらに、オーバーツーリズムや気候変動、プラスチック汚染、食品廃棄、労働環境といった構造的課題にも触れ、「観光の成長の裏側で、未解決の問題は依然として多い」と指摘。異常気象や混雑が旅行先選びの重要な要因となるなど、旅行者の意識変化にも言及した。こうした状況を踏まえ、「持続可能な観光への需要は供給を上回っている」とし、観光のサプライチェーン全体で環境・社会への影響を抑えつつ、地域への利益を最大化する必要性を訴えた。
GSTCのルイージ・カブリーニ会長
また、カブリーニ会長は、「観光は適切に管理されれば、社会・経済・環境のすべてにポジティブな影響をもたらす力を持っている」と強調。そのうえで、GSTCがグローバルリーダーとしてコミュニティを主導しながら測定可能な改善を積み重ね、大量消費型観光から持続可能な観光への転換を加速させていく方向性を示した。
同会議にはタイのスラサック・パンチャローンウォラクン観光・スポーツ大臣も駆けつけ、「この会議は単なる集まりではなく、共同行動を促す場だ」と強調。「観光が将来世代にとってもポジティブな力であり続けるよう取り組む責任と機会がある」と国際協力の重要性を訴えた。
パンチャローンウォラクン観光・スポーツ大臣
サステナビリティ基準の乱立に警鐘、実行重視へ転換
一方、GSTCの活動を紹介するセッションでは、ランディ・ダーバンドCEOが観光産業の構造的課題と新たな取り組みについて言及した。GSTCは、観光事業者やデスティネーション向けの国際基準を通じて持続可能な観光の普及を進めており、体験の質や現場の運営といった実務領域に重点を置いて枠組みを構築している。
ダーバンドCEOは、「持続可能性への取り組みは十分なスピードで進んでいない」と指摘し、特に観光分野が「持続可能性の測定と報告において遅れている」と指摘。その背景として、サービス産業である観光産業ではデータ収集・分析や評価の体制が十分に整っていないことを挙げた。また、多くの観光認証が第三者による外部審査を受けておらず、信頼性に課題があるとしたうえで「観光分野には300以上の認証が存在している。これ以上、新たな基準は必要ない」と明言した。基準の乱立が企業の負担となり、持続可能性の進展を妨げているとの認識だ。
GSTCのダーバンドCEO
こうした課題に対し、GSTCは新しい取り組みも進めている。知見や事例を集約する「ナレッジハブ」を整備するほか、飲食分野の基準も近く発表予定で、アトラクションの認証事業者には動物福祉に関する研修も実施するという。
また、欧州連合(EU)で2026年から環境表示に関する規制が強化されることにも触れ、「第三者による検証のない環境表示は認められなくなる」と説明した。観光分野でも、信頼性の高い認証・検証の重要性が高まるとの見方を示した。
ダーバンド氏は、「認証を取得すること自体が目的ではなく、持続可能な運営そのものを実現することが重要だ」と述べ、実効性のある取り組みへの転換を訴えた。持続可能性への対応はもはや選択肢ではなく、観光産業の将来を左右する前提条件となりつつあることがあらためて共有された。
観光大臣、TAT総裁、GSTC会長陣と参加者らが一同に
取材、写真・記事 平山喜代江


