旅行・観光トレンド最前線の国際カンファレンス「WiT Japan 2019」、今年の見どころは? 7月開催の中身を詳しく聞いてきた

テクノロジーと旅行・観光の国際会議「WiT JAPAN& NORTH ASIA 2019」が、今年も2019年7月4日・5日の2日間にわたって東京で開催される。国内外から旅行トレンド最前線で奮闘するリーダーたちが集まり、現状や課題について議論する場は今年で8回目。今回は、メインカンファレンスの時間を拡大したことから、これまで以上に多彩なテーマをカバーできるようになった。WiT2019の見どころについて、実行委員長の柴田啓氏(ベンチャーリパブリック代表取締役社長CEO)、副実行委員長の浅生亜也氏(サヴィーコレクティブ代表取締役社長)に聞いた。

旅行・観光+異業種エンジニアで新たなダイナミクスを

「WiT JAPAN& NORTH ASIA 2019」プログラムを眺めてまず目につくのは、取り上げるテーマの幅広さだ。オンライン旅行はもちろんだが、日本各地で出現している新しいタイプの宿泊施設、オンライン決済、ロイヤルティ・マーケティング、日本発アウトバウンド市場、人材活用におけるダイバーシティなど。メインカンファレンスが従来の1日から1日半に拡大し、会場も広くなったことで、より多岐に渡る分野をカバーできるようになった。異業種からの参入や、トラベル関連各社による新しい取り組みなど、年々広がり続ける旅行業を反映した動きとも言える。

メインテーマ「Through the Looking Glass」には、色々な角度から、変化の時代の真っただ中にある旅行・観光産業を見つめ、さらなる発展に向けたアイディアやインスピレーションを共有する場にしよう、との想いが込められている。

柴田氏は8年前、東京で初開催した当時を振り返り、「WiTを紹介するときは“オンラインの”と話していた。だが最近は“旅行・観光xテクノロジーの”と説明している」(同氏)。当初のDNAは継承しつつ、幅広い業種からの参加者に興味を持ってもらえる議論を目指すこと、世界や日本のトラベル最前線を感じる機会作りを強く意識している。

2日間にわたる同イベントには、昨年は500人以上が参加した。今年も国内外のオンライン旅行会社、航空会社、ホテル・旅館・民泊などホスピタリティー業、タビナカ体験、デスティネーション・マーケティングを担うDMOなど、多方面からの参加が見込まれているが、さらに裾野を拡げようと初の試みにも挑戦。異業種に従事するデジタル系のエンジニアで、旅行に関心がある人を、スタートアップが集まる初日前半の「イノベーション・ステージ」に招待する。技術系メディアなどで公募し、10人ほどを招待する予定だ。

狙いは、旅行系スタートアップの熱気を、エンジニアたちに実体験してもらうこと。「日本にはデータサイエンティストが足りない、といった報道が目立つが、旅行観光の分野も同じ。テクノロジーをもっと活用しないと、時代の変化にとり残される」と柴田氏は危機感を抱いている。こうした現状を打破する一策として、異業種エンジニアとWiTの出会いから生まれるダイナミクスに期待している。

起業家を対象にした初日のコンテスト「スタートアップピッチ」には、日本を含む世界11カ国・26社がエントリー。この中から、書類選考を勝ち抜いた10社が当日、プレゼンテーションを行う。各社の事業内容は、アドベンチャーツーリズム、法人旅行、カップル専用の旅行サイト、AIによるバーチャルアシスタントのツアーガイド、VRや3Dを使った旅行会社、民泊メタサーチ、SNSでのクーポン発行など。こちらも、扱う事業テーマが年々拡大している。

今や注目のオンライン・タビナカ企業に成長したKlook(クルック)も、WiTのスタートアップピッチで優勝し、ここから巣立っていった。第二、第三のクルック出現はあるのか。そのクルックからは、最高コマーシャル責任者、ウィルフレッド・ファン氏が審査員として参加。そのほかの顔ぶれも、実業を熟知した豪華な顔ぶれで、Ctrip(シートリップ)、LINEトラベル、リクルート、ファンド系企などの代表者が、プレゼンテーションに耳を傾ける。

2015年6月に開催されたスタートアップピッチで優勝した「Klook(クルック)」

世界の旅行トレンド最前線が分かるメインカンファレンス

開催日程が拡大し、時間に余裕が生まれたメインカンファレンス。冒頭では、各論に入る前に、世界の最新トレンドについての認識を共有する場を設けた。最初のセッション「Through The Global Looking Glass」では、アゴダ、シートリップ、韓国のタイドスクエア(Tidesquare)などの代表者が登壇し、色々な角度からトラベル分野の「今」について考察する。

続いて日本市場全体について、マクロ経済の視点から話すのは、ウィズダムツリージャパンのイェスパー・コールCEO。同氏は日本在住歴30年のエコノミストで著作も多数。一貫して日本経済に対して強気の姿勢で知られる。「ユーモアたっぷりのプレゼンテーション、卓越した分析力は必見。マクロの視点から日本を語ってもらう」(柴田氏)。

日本のオンライン旅行市場の全体像については、フォーカスライト日本代表の牛場春夫氏が、データ分析を用いて紹介した後、日系OTA各社の代表者が登壇するWiT定番の人気セッションへ。楽天、リクルート、ヤフー傘下の「一休」、JTBらが、各社の取り組みや今後の成長に向けた方策を議論する。また、その後に行われる韓国の注目のユニコーン企業「T'way Air」、中国のシートリップと傘下「Trip.com(トリップ・コム)」のプレゼンテーションにも注目だ。

昨年のOTAセッションの様子

2日目は、いよいよ来年に控えた東京オリンピック・パラリンピック2020を切り口に、訪日インバウンド戦略について、日本政府観光局(JNTO)企画総室長の金子正志氏と、東日本旅客鉄道(JR東日本)の鉄道事業本部営業部ツーリズム戦略グループ課長の鴇澤良次氏が登壇する。JR東日本の鴇澤氏は、同社における技術イノベーション推進やMaaS事業推進も担当している。

2018年の訪日外客数は過去最高を更新、前年比8.7%増の3119万人を記録したものの、今年に入り、伸び率には一服感が漂う。今後の成長のカギを握るのは需要の地方分散であり、鉄道やバスなどの二次交通は、重要な役割を担う。アジア太平洋市場における鉄道の予約高は現行の987億ドルから、2022年までに1388億ドルに拡大する(フォーカスライト調べ)との予測もあるなか、日本政府やJRは何を考えているのか。見逃せないセッションになりそうだ。

初登壇のパネリスト、初テーマも続々

WiT初登場の新テーマも多数ある。ロイヤルティプログラム、いわゆるポイント制にフォーカスするセッションでは、日本市場に的を絞り、eコマースに詳しい楽天や、共通ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」を様々な業種向けに展開しているロイヤリティ マーケティング社から、昨今の消費者が求める最新のポイント制度について知見を得る。マイル活用の達人と呼ばれるユーザーも登壇し、消費者側からの見方も加えた議論を目指す。

「旅行業界は遅れ気味」と言われているダイバーシティにも切り込む。グーグル出身で、最近ではメルカリのグローバル人事責任者として、インドからのエンジニア採用などで手腕をふるうダニエル・シルバ氏が登壇し、多国籍スタッフを戦力として活かす同社のケースを披露する。

宿泊分野での新しい試みでは、大手OTAや民泊に加え、日本国内で動き出しているスタートアップの面白い事例を集めた。「ホテル業出身ではない異業種の人たちが、軽やかにホスピタリティー産業に参入し、大手ホテルを凌駕するような活躍をみせている。そんな姿を知ってもらいたい」と内外のホテル業界に詳しい浅生氏は話す。

WiT初登壇となるパネリストは、今年5月、進化系カプセルホテル「アナザー(an/other)」を東京・京橋にオープンしたばかりのジャービス社長兼CEO・安藤健志氏と、昨年秋、オーバーツーリズムと客室不足に揺れる京都で全5棟の分散型ホテルをオープンしたアンゴ(安居)ホテルズ社長兼CEOの十枝裕美子氏。そして、訪日デスティネーションとしてはまだ無名に近い三重県の宿場町で、空き家を改造した古民家ヴィラを手掛けるコンサルティング会社「マンダラ」の東京オフィス代表、マイケル・キフル氏など。

「ホテルや旅館業界では、昔からのレガシーを背負っている分、イノベーションが遅々として進まないケースが多い。一方で、異業種や日本の外からやってきた人たちが、宿泊業に参入し、デジタルも上手に活用しながら飛び立っていく」(浅生氏)。こうした“軽やかな”動きに対し「シロウト」と突き放すベテランのホテリエもあるが、「実は非常にしっかりとインバウンド旅行者の需要を捉えている」と浅生氏は感じている。

昨年、初めて取り上げたテーマを、さらに深堀りするのは決済(ペイメント)の分野で、今年はStripe(ストライプ)、アクティビティ決済のRezgo、そのほか外資大手などが登壇し、日本市場や旅行関連の事情を踏まえつつ、旅行にまつわる決済の現状について語る。

一方、数年ぶりにテーマとして復活したのは、日本発アウトバウンド市場の活性化。日本人に最も古くからなじみが深い外資系ホテルブランドのヒルトンをはじめ、海外政府観光局、インフルエンサーなどから、SNSを使ったプロモーションなど、主にマーケティング分野について考察する。

海外の国際会議への参加が多い柴田氏だが、今春、ソウルで開催されたWiT韓国では、その熱気と盛り上がりに圧倒されたという。「活気がある理由の一つは、やはり韓国発のアウトバウンド旅行市場が伸びていること」(同氏)。日本のアウトバウンド市場についても「できることを地道にやっていくべきだし、海外デスティネーションから日本市場への期待も根強い。最近では、数を追うだけでなく、日本人客が選んでくれるリゾートであることがクオリティーの証、といった見方もある」と指摘する。

そのほかにも、LCCのバニラエアを買収して一年経つピーチ・アビエーション、「スーパーアプリ」戦略を進めるライン、ブッキングドットコムやエクスペディアなど世界大手のOTA、日系大手航空各社にデルタ航空など、注目企業が次々に登壇する豪華な顔ぶれだ。

成長分野として注目される今、何をやるべきか

トラベルは、今、産業界全体が注目している分野なのだと柴田氏は実感している。「色々な業種、業界の方と会う機会には、必ずWiTについて紹介しているが、みなさんホスピタリティーやトラベルビジネスに対する興味が高くて驚く」(柴田氏)。背景には、単に旅行業に興味がある、というよりも「何か新しいことをしないと成長できない。では今、一番成長している分野はどこか?と考えたときに、トラベル関連だ、という見方がある」(浅生氏)。

WiTのこれからの使命について、柴田氏は「繰り返しになるが、裾野を広げる、ということに尽きる。そして旅行・観光業が発展するのにテクノロジー活用は欠かせない。OTAだけでなく、旅館、DMOなど、あらゆる人に参加してもらい、刺激を受けてもらいたい。そういう場を目指している」。

浅生氏は「最近のトレンドについて、ホテルとかエアラインとか、点で捉えるのではなく、多面的に捉える学びの場にしたい。私自身も、そういう学びをしたいと思っている」と話す。

先行き不透明な時代のなかで、旅行・観光は誰もが認める将来有望な成長産業だ。特に日本は今、海外からの旅行者の間で、非常にホットなデスティネーションでもある。「ただし、旬は移り変わるもの。だからこそ、旬のうちに、中長期的な日本のファンを増やせるか。我々の課題だと思う」(柴田氏)。

なお、トラベルボイス編集部では、今年も同イベントのプレミアムパートナーとして各種情報を提供する予定。以下の読者限定割引プロモーションコードを利用すると、2割引の料金でチケット購入が可能だ。割引コードの適用は6月24日まで。

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TRAVELVOICE2019

チケット予約サイト: https://eventregist.com/e/witjpna2019

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