大型イベント時の民泊は普及するか? オリンピック契機に観光コンテンツ化に期待する自治体の取り組みを聞いてきた

観光庁と厚生労働省は昨年末、「イベント民泊」のガイドラインを改訂した。その名称も「イベント民泊」から「イベントホームステイ」に変更。2020年東京オリンピック・パラリンピックというビッグイベントを控え、競技会場となる自治体では、宿泊施設の確保という観点だけでなく、地域交流の場として「イベントホームステイ」に期待を寄せるところは多い。

2020年2月12日に開催された「地方創生の視点から捉える民泊の新たな可能性」と題したシンポジウムでは、自治体によるインベンホームステイの取り組みについてのパネルディスカッションも実施され、昨年のラグビーワールドカップでの実績や今後の課題などが共有された。

パネリスト

  • 地主純氏 観光庁 観光産業課 民泊業務適正化指導室長
  • 石井重成氏 釜石市総務企画部オープンシティ推進室 室長
  • 清塘文夫氏 熊本県商工観光労働部 観光物産課 課長補佐
  • 稲生勝義氏 千葉市総合政策局 国家戦略特区担当局長

コーディネーター

  • Airbnb Japan執行役員の長田英知氏

各自体体が実績報告、供給過多の実態も明らかに

「イベントホームステイ」とは、大規模イベント開催時に、行政が住民に住宅を宿泊施設として提供してもらうこと。要請を受けた住宅は、イベント民泊実施期間中であれば、簡易宿所の営業許可や特区民泊の認定などの許認可がなくても住宅宿泊を営業することが可能になる。

観光庁の地主氏は、「イベントホームステイは、宿泊施設の供給だけでなく、コンテンツとしての価値が重要」という認識を示したうえで、ガイドラインの改訂について、「宿泊施設の不足が見込まれる」場合のほか、「ホームステイでの宿泊体験を通して、地域の人々と旅行者の交流を創出する」ことを目的とする要件を加えたことを説明。今夏のオリパラでは、競技開催都市だけでなく、「ホストタウン」378都市、「復興ありがとうホストタウン」22都市、「共生社会ホストタウン」66都市でもイベントホームステイの潜在性があるとした。

釜石市の石井氏は、昨年のラクビーワールドカップでのイベントホームステイの実績について報告。期間中計33軒が参加し、うち23軒に63人が宿泊。台風の影響でカナダ対ナミビア戦が中止になってしまったが、「もし2試合開催されていれば、宿泊者は100人を超えていただろう」と明かした。利用者の属性は、30代が中心で関東圏からが多く、海外からの宿泊者の割合も25%になったという。

同市は2016年にラクビーワールドカップに向けてAirbnbと提携。大会後、2軒が期間限定のイベントホームステイから通年の民泊に移行した。石井氏は、大会を振り返り、イベントホームステイの利点として「オンディマンド経済、関係人口の創出、多収入」を挙げたうえで、「住民の地元への意識も変える」とその効果を強調した。

熊本県では昨年、「祭りアイランド九州」とラグビーワールドカップ2試合でイベントホームステイを県単位で実施した。結果は、ホスト数84名(84物件)で提供部屋数は161室、宿泊可能人数は482人だった一方、延べゲスト数は約半分の237人にとどまった。その理由として、熊本県の清塘氏 は「日韓関係の悪化で、韓国人観光客によるマッチングが少なかった」ことを挙げた。

ホストは40代と50代が中心で、参加の理由は宿泊者との交流や地域貢献を挙げる人が多く、そのうち80%が「またしたい」と答えたという。一方、ゲストは20代から30代がメイン。ラクビーワールドカップの期間中では、フランス対ウェールズ戦が行われたことから、フランスとイギリスからの宿泊者も多かったが、全体の45%が日本人。その目的も「観光」が47%、「民泊に泊まってみたかった」が60%以上になったという。

清塘氏は、イベントホームステイのガイドライン改訂を高く評価。「これまでは、宿泊施設の逼迫が条件だったが、県全体では余っている状況ではイベント民泊は難しかった」と明かしたうえで、今回の改訂では「地域の人々と旅行者の交流を創出する」ことが要件として認められたため、ハードルは下がったという。また、ホームステイと名称を変えたことで、「違法民泊のイメージが払拭できることも大きい」と付け加えた。

千葉市では、今夏のオリパラでイベントホームステイを実施する予定だ。今年1月23日からホストの募集を開始。千葉市では合計7競技が実施されることから、大会期間で最大4回受け入れ可能な仕組みを考えているという。千葉市の稲生氏は「市民が直接オリパラに関わる機会を提供する」とイベントホームステイの意図を話す。

オリパラの前に、4月の「ニコニコ超会議2020」と5月の「フリーマーケット2020」の大規模イベントで実績を作りたいという。そのうえで、オリパラでは1000人泊と目指す。稲生氏は「数以上に、いろいろな人に参加してもらい、国際交流などでさまざまな形のコミュニティーが生まれれば」と話し、イベントホームステイに宿泊以上の価値を期待した。

「ガイドライン改訂でイベントホームステイのハードルは下がった」

イベントホームステイ自体の認知度向上を

日本各地で取り組みが進むイベントホームステイだが、そもそもイベントホームステイの存在を知らない自治体も多い。その認知度向上のきっかけと期待されているのが今夏のオリパラだ。観光庁の地主氏は「世界的に民泊はまだ生まれたばかり。宿泊の調整としての民泊で終わってしまうのか、それともコンテンツとしての民泊になるのか。そのなかでイベントホームステイの役割は大きい」として、今後も「交流の場の創出」として展開していく方向性を示した。

千葉市の稲生氏は「ホストを集めるのは難しい」と発言。そのうえで、「自治体がホストの顔が見える関係を築くことが大切」と主張した。また、自治体によるイベントホームステイの発令について、熊本県の清塘氏は「ホスト募集のためにも、できるだけ早く着手すべき。ひとつ事例ができると拡散していく。空振りでもいいから振ってみる」と提案。県が主導してイベントホームステイを行うことで、県内の自治体からの問い合わせも増えているという。

釜石市の石井氏は、受け入れる地元の意識も重要と指摘。「イベントホームステイは、まちづくりに対する市民参画の意味もある」と話したうえで、「ラグビーワールドカップの試合の話をするときに、まるで自分が招致したかのように話すホストもいる」と紹介し、ソフトレガシーとしてのイベントホームステイの価値を強調した。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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