フランスの観光再開への打ち手を聞いてきた、ホテル格付けの見直しや地方の観光デジタル化を支援、サステナブル観光も

2021年は、フランスが日本にプロモーション機関を設置してから50年目に当たる。節目の年ながら、昨年からの続く新型コロナウイルスの影響は今年も色濃く残り、日仏間の往来は事実上止まったままだ。それでも、フランス観光開発機構(アトゥー・フランス)在日代表のフレデリック・マゼンク氏は、ワクチン接種の進捗に合わせて、「少し先に光が見えてきた」と話す。

ワクチン接種日本人は無条件で入国可能

現在、フランス政府は、日本を含む「グリーン国」からの入国について、ワクチン接種を完了した渡航者は、PCR検査なしでの入国認めており、ワクチン未接種者についても、渡航72時間以内のPCR検査あるいは抗原検査で陰性を証明すれば、入国は可能にしている。

「日仏間の往来でフランスには全く問題ない」とマゼンク氏。エールフランスは6月21日からパリ/羽田線を週3便で再開し、夏期は週5便に増便するなど、日仏間の航空ネットワークも復活しつつある。そのなかで、マゼンク氏は「やはり、帰国後14日間の自主隔離は大きい。これが解除されないと、日本人旅行者の海外渡航は難しい」と話し、課題は日本側にあるとの認識を示す。

それでも、「光が見えてきた」と話す背景には、ビジネス渡航の再開の兆しが見えてきたことと、旅行会社の来年に向けた商品造成が動き始めたところにある。日本のワクチン接種の状況にもよるが、「早ければ年末、少なくとも来年春頃には日本人の訪仏が動き始めるのではないか」と見込んでいる。

現在、フランスに対する感染症危険レベルは依然として渡航中止勧告のレベル3(7月14日現在)。フランスでのワクチン接種は日本よりも進んでいることから、日本での接種率も高まれば、危険レベルも下がり、「14日間の隔離規制も解除されるのではないか」と期待をかける。日本でも7月26日からワクチンパスポートの申請受付が始まる。海外旅行の正常化に向けて、昨年より状況は随分と改善してきた。

アトゥー・フランス在日代表のマゼンク氏「今年のフランスへのインバウンド旅行者は4000〜5000万人になるのでは」観光の本格的な再開に向けて戦略再構築

アトゥー・フランスは、市場回復の光明が見え始めたことから、9月から観光戦略の再構築を進めていく。

まず、持続的な発展を担う若い人材は観光立国として欠かせないという認識から、フランス国内で次世代の観光従事者を育成する取り組みを開始する。また、コロナ禍中、衛生対策など宿泊施設に対する旅行者のニーズも変化しているため、ホテルの格付けも見直していく。さらに、空港、鉄道、駅などの観光インフラの高度化、地方での観光デジタル化を国の予算で支援していく。

フランス政府は、コロナ対策としてロックダウンなど厳しい措置を講じてきた。一方、観光が主要産業のひとつであることから、観光事業者への支援も厚く、旅行会社やホテル、キャンプ場など旅行業従事者に給与の100%に当たる金額を支給するために、2020年は約180億ユーロ(約2兆3400億円)、2021年は370億ユーロ(約4兆8100億円)の予算を投じた。こうした支援により、「国内のランドオペレーターが破綻したという話は聞いていない」という。

また、フランス国内や周辺EU国に対する今夏のプロモーションに続き、9月からは長距離の市場に向けたグローバルキャンペーンも新たに開始する予定だ。

このほか、マクロン大統領の発案で、年末には世界中の観光関連のキーパーソンを集めた「観光サミット」をパリで開催する計画が進んでいる。「観光版ダボス会議」(マゼンク氏)のような位置づけで、観光における今日的課題について議論する機会になるという。

日本市場ではラグビーW杯を訴求、サステナブル観光セミナーも

日本市場でも、来年の復活のタイミングを見据えて、プロモーション活動を活発化させる。その柱のひとつが、2023年にフランスで開催されるラグビーワールドカップ。2019年の日本開催では大きな盛り上がりを見せたことから、ラグビーをフックとしてフランスの露出を強化する考え。グループDの日本は、トゥールズ、ニース、ナントで予選ラウンドを戦う。

また、今年9月の東京パラリンピック後には、2024年のパリ五輪に向けたプロモーションも始める予定だ。さらに、感染状況次第と前置きしたうえで、マゼンク氏は「ワインや食関連のリアルイベントも計画している」と明かす。

このほか、SNSなどを活用したオンラインプロモーションも継続し、フランス旅行の機運を高めていく方針だ。

業界向けには、これまで12回にわたって、現地サプライヤー向けに日本市場の動向などを説明するセミナーを実施してきた。6月にワークショップ「SAKIDORI FRANCE 2021」も開催。昨年に続いてオンラインでの開催となったが、参加企業は日仏とも昨年を上回った。さらに、今秋には、サプライヤー別、地方別で的を絞ったセミナーの開催を計画するほか、9月から新しいオンライントレーニングの仕組みを導入し、プロフェショナル育成にも力を入れていく。

マゼンク氏は、世界の観光の潮流となっているサステナブルツーリズムについても言及。フランス国内あるいはEUからの旅行者のあいだでは、地方での「グリーン観光」の人気が高まっていると明かす一方、「日本人旅行者にとっては、フランスは引き続き『アーバン観光』が主体。ホテルやアクティビティを選ぶときは、SDGsを意識する旅行者もいるだろうが、旅先の選択ではまだそれが基準にはなっていない」と話す。

それでも、MICEなどの法人旅行ではSDGsの意識は高まっており、コロナ禍を契機に、それがレジャーにも広がるのではないかと見ている。

これを踏まえ、アトゥー・フランスでは、年内にフランスの大手企業と共同で、サステナブルツーリズムに関するセミナーを開催する計画だ。

※ユーロ円換算は1ユーロ130円でトラベルボイス編集部が算出

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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