旅行マーケターが知っておくべき5つのテーマ2024年版、排出ガス相殺の「カーボン・オフセット」の文言乱用はEUでは禁止に【外電】 

ちょうど一年前、私は「マーケターが2023年に注目するべき5つの“真実”」という記事をまとめた。これはいわゆる未来予測ではなく、旅行マーケターが取り組むべきことについて、日頃のビジネスを通じて、私がより優先順位が高いと思っていることを5つ挙げた。

具体的なテーマは、「生成AI」「旅行検索サービスでのグーグルの確固たる優位性」「カーボンオフセット」「ファーストパーティ・データ対応」「Airbnbと独立系ホテルの競合」の5つ。

今回は、そのアップデート版として、2024年も引き続き重要だと思われる5つのことを取り上げたい。

ファーストパーティ・データ戦略重視への移行

米国の空港では、セキュリティ・チェックに必要なIDの厳格化が予定されているが、これより一足早く、2024年中に始まるのがサードパーティ・クッキー(第三者が収集する個人データ)に対する規制だ。航空会社にとっては、有利な立場になるチャンスかもしれない。顧客ロイヤルティプログラムという収益事業がすでにあり、ファーストパーティ・データ(自社保有のデータ)という宝の山をすでにたくさん保有しているからだ。

ファーストパーティ・データについては、2023年来、本腰を入れて取り組むべきだと言われてきたが、もしまだ手付かずという人も、慌てなくて大丈夫。世界のネットユーザーの63%が利用するGoogle chrome(グーグル・クローム)の場合、サードパーティ・クッキー排除の第一段階では、対象範囲はユーザー全体のわずか1%。つまり時間の猶予はまだある。

ホテルなどホスピタリティ事業者の場合、宿泊客のファーストパーティ・データ収集では、予約システム(CRM)や施設管理システム(PMS)が強い味方になる。大手ブランドならば、専任のデータサイエンティストを抱えて自社プラットフォーム内を掘り起し、営業、マーケティング、商品開発チームと共に、顧客獲得やリピーター化につながるデータ活用を進めているだろう。

一方、小規模のホテルチェーンや独立系宿泊施設のマーケターであれば、(専門家の手を借りなくても)自社データの全体像がよく分かり、自在に操作できるPMSやCRMに乗り換えるべきだろう。あるいは、ホテルのファーストパーティ・データ戦略の構築や導入支援サービスを活用するという方法もある。

サードパーティ・クッキーの消滅は、ツアーや体験アクティビティ事業者にとっても大きな問題だ。新規客との接点になっているグーグル広告への依存を減らし、顧客獲得コストを縮小するためには、リピート率を上げる必要があるからだ。特に、複数日間に渡るツアーをグローバル展開し、顧客向けの商品カタログも作っている大手旅行会社や、オンラインで多種多様な日帰りツアーを扱うビアターやゲットユアガイドには影響が大きい。だがファーストパーティ・データをうまく活用できれば、自社チャネル内で最適なタイミングと対象を選び、狙い通りのメッセージを届けられるようになる。

2023年は、グーグル・アナリティクス・クラシックからGA4への移行がようやく実現した。多くのユーザーから反発はあったが、GA4は存続し、自社サイトでのファーストパーティ・データ収集が始まった。GA4への切り替えがきちんとできているか、今一度、確認し、イベントや成約データが、レポートから漏れていないかチェックすることをお勧めする。

生成AIは味方であり、敵でもある

正しいマーケティングについて論じるのに、生成AIは避けられないトピックだ。

一年前、私はこう書いた。「チャットGPIなどのツールが登場し、旅行ビジネスがどう変わるのか、あるいは変わらないのかといった話があふれている。正解は、白か黒ではなく、その間のどこかにあり、それぞれの事業分野やツールの使い方によっても違うだろう」。

正直に言えば、当時の私は、生成AIが最初の一年でもたらすものをやや過小評価していた。とはいえ、テクノロジーに関する昔からの定説にもある通り、新しい技術が登場すると、最初の一年は皆、そのインパクトを過大に評価する一方、続く10年間に起きることについては軽視しがちだと思っている。

すでにチャットGPTは、バージョン1からバージョン4.0ターボへと進化しているが、この技術によって旅行業の未来がどうなるのか、我々の多くにとって未知数だ。将来的なユースケースは色々あるが、本当に実現するかは分からない。

マーケティング領域において、現時点ではっきりしていることは、生成AIによってコンテンツ作りの障壁はゼロに近くなったことだ。グーグルでも、検索結果として上位に表示する内容の精度アップを目指し、インターネット上にある何億もの文書の読み込みに以前より力を入れている。

旅行系スタートアップ界隈では、2023年は、既存のものの進化形バージョンが数多く登場した。検索エンジンや調査、旅程作りツールなどの表層部分に、生成AIを組み込んだもので、創業期ベンチャーキャピタル投資を手掛けるNfXは、これをAIスペクトラム・モデルにおける「レベル4」AI企業と呼ぶ。

同社によると、レベル4とは、「AIを使っていることが最大のセールスポイントになっている事業で、存在意義はあやうい。AIのためのAIに終始し、新しくも面白くもない」からだ。

対照的に、本当の意味で破壊的創造力があるのは、AIをプロダクト設計の根底部分から組み込み、AIを大前提にしている事業だ。

例えばAutouraやMobiなど、2023年11月のフォーカスライト・カンファレンス参加企業がこれに該当する。

とはいえ、一年前に書いたことは、今も正しいというのが私の考えだ。「分極化が大きく進むなか、消費者は、偽りなく正しいことをブランド各社に求めている。マーケティングにおける生成AI活用でも、すべてをAIに置き換えるのではなく、一定の範囲内で、補完的に活用するところから始めるのが賢い選択になる」。

グーグルは新規客獲得の主要チャネルであり続ける

2023年は、グーグルにとってひどい年だったと言えるかもしれない。オープンAIに先を越され、バードのローンチでは、気候問題への配慮不足から、株価が1日で8%下落する事態となった。

その後、状況は落ち着き、検索エンジンの巨大企業にとって明るい兆しも見えている。

11月には、オープンAIが週末の数日間のうちに壊滅状態に陥り、グーグルのバードや生成AIによる検索体験(SGE)への支持は広がっている。

SGEのテスト展開は、2023年で完了というのが正式発表だが、検索マーケティング関係者の多くは、検索機能の中核部分を対象に続くと見ている。SEO(検索エンジン最適化)の領域はさらに進化しているが、最前線にとどまっていられる限り、既存大手の優位性に変わりはない。

事実、多くの検索の起点は今もグーグルだ。最近の調査では40%以上という。エクスペディアやブッキング、その他のOTA各社も、相変わらずグーグル広告に年間数十億ドルを投じている。

なお、旅行者に目を転じると、2022年は全体の約34%がTikTokの影響を受けていた(MMGYグローバルによる年次調査)。

良くも悪くも、グーグルの利用状況は圧倒的で、オーガニック検索かパフォーマンス広告かという違いはあるものの、顧客獲得の場であることにかわりはない。

米株価の動きも、グーグルが引き続き強いとの見方を示している。同社株価は2023年に62%上昇したが、主要株価の指標であるダウジョーンズ・インデックスは14%超の伸びにとどまった。

体験マーケティングでは、独立系ホテルがエアビーと対決

現地での体験アクティビティは、引き続き、要注目の分野になる。クルックやゲットユアガイドでは2023年、大規模な資金調達ラウンドがあったほか、未上場企業投資では、Hornblower GroupやContext Travelなどへの関心が高くなっている。

さらなる追い風が、投資家の期待を裏付けるような需要動向だ。

タビナカ特化のニュースサイト「Arival」によると、旅行一回当たりの体験アクティビティや現地ツアー利用は平均7回。つまりホスピタリティ事業者にとって、売上獲得のチャンスは7回あるということだ。

ところがエアビーアンドビーは、パンデミック当初以降、中断しているエクスペリエンス事業をまだ再開していない。

この間、Holibob、Way、Mount、Keyなどのスタートアップ各社が、民泊などの短期宿泊レンタル、不動産運営事業、ホテルなどを対象に、ツアーや体験などのアンシラリー販売を手掛けるための様々なツールを提供するようになっている。

さらにGDSも動き出した。アマデウスでは、同社の流通プラットフォーム「アマデウス・ディスカバー」への投資を拡大し、取り扱う現地ツアーや観光施設の数を大幅に増やしたという。2023年のフォーカスライト・カンファレンスで同社チームから話を聞いた時は、その豊富さと充実ぶりに驚かされた。

ホテル業界では、新ブランドや他社との提携ブランドの開発が活発になっており、既存ブランドも含めて、唯一無二の顧客価値を届けることに各社とも力を入れている。それぞれに合った体験を提供するためのキュレーションやパーソナライゼーションが、ライバルとの差別化のカギになっている。

「カーボンオフセット」の文言濫用は、もはや許されない

これは、非常に的を射た「真実」だった。各国の政府当局は2023年、排出ガスに関する文言使用を本格的に取り締まるようになり、EUでは「カーボン・ニュートラル」や「エコ」という文言使用について、企業側がそれを証明できない限り、使用禁止する方針を打ち出し、2026年までに施行予定だ。

気候変動に対する責任を負うべきなのは、個人ではなく、企業や組織へと完全にシフトしている。

先日、20~30代の独身者向けに数日間のツアーを催行している某旅行会社のCEOから聞いた話では、気候変動の問題意識が高いこの世代でも、旅行による排出ガス相殺に必要なコストを追加負担することには消極的という。顧客側は、旅行会社が最初から「地球にやさしい」ツアーを商品化するのが筋だと考えている。

最近の調査結果でも、同じような消費者意識が明らかになった。つまり、地球にやさしい旅行をしたいが、そのせいで追加料金が発生することは好ましくないという。さらに、ある欧州の航空会社が6万3520件の予約を対象に実施した調査では、カーボン・オフセット(排出ガスの相殺)の費用として、追加料金を支払ったのは、全予約者の4%にとどまった。環境先進国が多いヨーロッパでさえこうなのだ!

では、気候変動対策を担当しているマーケターや旅行各社は、どうするべきか?ありがたいことに、この問題に孤軍奮闘する必要はなく、企業を支援する様々なサービスが登場している。その一社が、先日、1500万ドルを資金調達したスタートアップのChoooseで、ジェットブルー、トリップ・ドットコム、アメックスGBTなどの気候変動対策を支えている。

またフォーカスライト・カンファレンスの「ローンチ・ピッチ」に登壇したWeevaでは、ホテル向けに企業活動のサステナビリティ管理ソリューションを提供し、より正確な排出ガス量の把握などに役立てている。

これから観光産業はどこへ向かうのか。最後に、2023年から現在に至るまで、私が不可欠だと考えていることを提言してこの稿を終わりにしたい。まず、サステナビリティの実現には、包括的なアプローチが必要だ。環境保全だけではなく、例えば、企業が地元コミュニティにどう関わり、その発展にどう貢献するのか。あるいはホスピタリティ産業における動物福祉や強制労働に対する取り組みなど、幅広い領域が関わっているからだ。

自社の取り組みについてありのままを話し、実現できていないことは、できていないと明らかにする透明性を持つこと。その方が、もはや誰も信じていない不誠実なフレーズでごまかすより、ほぼ間違いなく、よい結果になる。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:5 TRUTHS FOR TRAVEL MARKETERS: 2024 UPDATE

著者:DUNE7共同創業者・最高戦略責任者(CSO)JARED ALSTER氏

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