世界40カ国展開のアスコット社、日本で宿泊ブランド「lyf(ライフ)」展開を強化、拡大戦略を開発責任者に聞いた

世界40カ国230都市以上で990軒超のホテル、サービスアパートメントなどを展開しているシンガポール拠点のホスピタリティ・グループ、アスコット。「オークウッド」「アスコット」「クレストコレクション」など計14の宿泊ブランドを展開する同社が、日本におけるホテルやサービスレジデンスの運営拡大を進めていく。

同社は、今月、アジアと中東で11軒の新規ホテルを開業する計画を発表したところだ。日本および韓国を担当する同社の事業開発統括本部長、ヴィヴィアン・ウォン氏(写真)は、「柔軟かつハイブリッドな宿泊施設の運営ノウハウがアスコットの強み。独自の多様な宿泊ブランドの展開(マルチ・タイポロジー戦略)でグローバル拡大を加速する」と話す。

つながる場になるコリビング型「lyf(ライフ)」

アスコットは、日本で2022年に長期滞在向けのサービスレジデンス・ブランド「オークウッド」を傘下に獲得したのを機に、展開する複数ブランドの運営拡大と、ブランド認知度向上に向けたマーケティング活動を強化している。現在、日本国内で運営しているのは5ブランド・22軒だ。

同社はグローバル展開として、ハイエンド向けの長期滞在施設からホテル、民泊まで、多様な宿泊形態を物件や立地条件に合わせて対応する「マルチ・タイポロジー戦略」を掲げており、「ゲストの滞在期間やグループの人数、予算などに応じて、さまざまなタイプを提案できる。大型物件では、複数タイプを組み合わせて運営するケースもある」とウォン氏は説明。こうした戦略により、昨今、ますます多様化する宿泊ニーズにも対応することができると強調する。

アスコットが展開する複数ブランドのなかで、日本で今後、需要が増えると考えているブランドのひとつが、コリビング型の「lyf(ライフ)」だ。

ライフは、アスコットが2016年にシンガポールでスタートした若年層向けのソーシャル&ライフスタイル・ホテル。「live your freedom(自分らしく生きる)」の略がブランド名になっている。同社の調査では、若年層が旅に期待することに「友達を作ること」や「新しい体験」が多かったため、こうしたニーズに応えられるように「人と人がつながる場所を提供すること」(ウォン氏)を目指した。

施設内には客室のほか、共同キッチンやランドリー・スペース、多目的室、共用のミーティング・スペースなどがあり、「たとえば、共同キッチンでの調理中に、他の滞在客と話がはずんだり、旅行の情報交換をしたり。定期的にイベントも開催しており、宿泊客だけでなく、ホテル近隣の企業などにも参加をよびかけて、ゲストと地元の人が交流できる場としている」(同氏)。

アスコットでは、2030年までに世界で展開するライフを現在の約4倍、150軒に拡大したい考えだ。日本では福岡、銀座、渋谷に計3軒を展開しているが、新規開発を積極化する。

なお、アスコットでは2026年3月、JR東日本による再開発プロジェクト「大井町トラックス」の一角に長期滞在用レジデンス「オークウッド大井町トラックス東京」(78室)を開業する予定。

さらに2029年には、同社の最上位ブランド「クレストコレクション」の日本第1号となるホテル「センカ東京 by クレストコレクション」(92室)を、東京建物による再開発プロジェクトが進む東京駅八重洲エリアで開業する。

既存ホテルからのコンバージョンに商機

ウォン氏によると、日本の既存ホテルや土地オーナーからの問い合わせが増えており、ホテルだけでなく、サービス・アパートメントへの関心も高いという。

背景には、他の市場と比べるとまだ金利が安いこと、オフィスの供給過剰、インバウンド需要の増加などがあると見ている。またコロナ禍以降、不測の事態に備えたいというクライアントから長期滞在型施設への関心は強くなった。

「日本では(既存ホテルや建物からの)コンバージョン案件が多いので、これを狙っていく」と同氏は話す。開発案件の増加に伴い、日本オフィスのスタッフも増やす考えだ。

アスコットでは、社内のレベニュー部門が、宿泊施設のタイプ、法人契約とOTAなど外部チャネル経由の販売比率、価格設定などの立案をサポート。規模の大きい案件では、ホテルとサービスレジデンスなど、複数タイプを組み合わせて開発することも可能だ。ホテルに改築するのが難しい小規模物件は民泊にするケースもあるため、日本での民泊運営に必要な各種登録もおこなっている。

日本国内運営施設の利用客の7~8割は海外からの訪問客が占め、残りが日本人客だ。長期滞在施設は、グローバル企業との法人契約やリピーター利用など、すべて自社の直販となっている。

個人客向けの施策として、現在、力を入れているのが自社アプリおよびロイヤリティプログラム「アスコットスターリワーズ」の会員獲得による顧客の囲い込み。「競合他社よりポイントが貯めやすく、上級ランクに進みやすい会員プログラムとすることで、会員数は前年比30~40%増で拡大している」(ウォン氏)と自信をみせた。

取材・記事 谷山明子

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