旅先で「自然以外に何もないこと」楽しむラグジュアリー体験を取材した、カナダで最もアクセス困難なマニトバ州最北部、知的好奇心を開放する旅

カナダの中心に位置するマニトバ州。その広大な大地の最北部、サブアークティック(亜北極)地帯は、無数の湖とツンドラの手つかずの自然が広がる地域だ。このエリアに存在する「ギャングラーズ・ノースシール・リバー・ロッジ(Gangler’s North Seal River Lodge)」は、決して派手ではないが、都会の喧騒を完全に離れ、自然への好奇心を解放し、心身ともに「自然に帰る」贅沢な時間を提供する場所だ。この極地でしか味わえない、「究極の静寂」の魅力を体感してきた。

「自然以外に何もないこと」を楽しむ

カナダ・マニトバ州の最北部に位置する「ギャングラーズ・ノースシール・リバー・ロッジ」。200ヘクタールにおよぶ敷地内には、12の川と100以上の湖、手つかずのツンドラ地域が広がる。広大な自然に囲まれたこの場所を訪れる手段は、専用のチャーター機のみだ。

ロッジのオーナーのケン・ギャングラー氏は、「カナダで最もアクセスが困難な場所のひとつ」だと話す。このロッジを訪れたゲストだけが体験できるのが、「自然以外に何もないこと」を楽しむ贅沢。携帯の電波も届かないほどの極地に身を置くことで、自然と自分自身のリズムが一致していく、そんな“原点回帰”の時間を味わうことができる。

現地を訪ねるには、まずはマニトバ州の州都ウィニペグへ。ウィニペグから、さらにチャーター機で北へ約3時間。マニトバ最北部の人里離れた原野地帯、ノースシール・リバー流域を目指す。

ギャングラーズの敷地が広がるこのノースシール・リバー流域は、北米最大級の「サンド・エスカー」が連なる場所だ。サンド・エスカーは、約8000年前に、氷河の融水によって運ばれた土砂が堆積して尾根となった地形。同地域には13のサンド・エスカーが悠々と連なり、最も長いものは300キロにもおよぶ。これだけの規模は世界的にも稀有だという。

小高いサンド・エスカーからの眺め。ツンドラと湖の景観がどこまでも続く

プライベートチャーターで向かう「旅の始まり」

今回は、2泊3日のグループツアーに参加した。早朝、ウィニペグ市内の飛行場に集合し、専用の小型チャーター機に乗り込むところから旅がスタート。チャーター機の搭乗口では、パイロット自らがゲストを出迎えてくれる。

今回使用されたのは、9人乗りの小型チャーター機。飛行場から飛び立ち、上空から見下ろす風景は、次第に都市から氷河地形の湖群へと変わっていく。眼下には無数の小さな湖が点在し、マニトバ州が「湖の国」と呼ばれる所以を実感する。3時間ほどのフライトを経て、ノースシール・リバー沿いの滑走路へ着陸すると、ロッジのスタッフたちが温かく迎え入れてくれた。

ギャングラー氏は、このアクセス体験を「ゲストが文明から離れ、自然の時間へと入るための儀式」と表現する。容易でないアクセスこそが、この旅の大事な要素の一部なのだ。

専用小型チャーター機で出発。ツアーはウィニペグからのすべての行程がパッケージで提供される

静寂を楽しむコテージ型の滞在

「ギャングラーズ・ノースシール・リバー・ロッジ」は、ゲストがともに食事や団らんの時間を楽しむメインロッジ棟と、ベッドルームを備えた独立型のコテージからなる。木の温もりが感じられるメインロッジでは、三食とも地元食材をふんだんに使った料理が提供され、夜は仲間とともにビリヤードを楽しんだり、暖炉の火の前でワインを片手に語らうゲストたちの笑い声が響く。

木の温もりが感じられる広々としたメインロッジでは、ゲストが食事や団らんの時間を楽しむ

滞在者ごとに割り当てられる独立型コテージは、プライバシーを重視しながらも、窓からの景観を楽しめるように設計されている。窓の外をのぞけば、夜には満天の星空が広がり、朝目覚めると鏡のような湖面が広がっている。

200ヘクタールの敷地内には他の住民コミュニティや商業施設は一切なく、敷地内に滞在しているのは施設スタッフと同行のツアー参加者のみ。あたり一面に広がる自然と静寂のなか、この上ないプライベート感と安心感に包まれ、心から自分を解放できる。

プライバシーにも配慮された独立型コテージ。朝にはスタッフがコーヒーを運んできてくれる

知的好奇心を解放し、「自然と一体になる」体験

ギャングラーズでは滞在するゲストに、自然を存分に学び、体感できるさまざまなアクティビティを提供している。人気が高いのは、サンド・エスカーの尾根をめぐるツアーやハイキング、野生動物の見学、湖でのフィッシング、そしてオーロラ鑑賞などだ。一日のプランは、ゲストの好みやその日の天候に合わせて柔軟にアレンジされるが、いずれの体験も「自然と一体になる」というロッジの哲学に貫かれている。

到着日はメインロッジでの昼食のあと、ロッジ近くのサンド・エスカーと、その付近の森を散策した。滞在中のアクティビティでは、このエリアの自然や生態系を知り尽くした生物学者たちが自然ガイドとして同行する。

森のなかを一緒に歩きながら、目に入ってくる木々や植物の説明はもちろん、この森で暮らす野生動物たちの季節ごとの行動や、森と共生してきた先住民の暮らしの知恵など、好奇心が掻き立てられる話をたくさん聞かせてくれた。決して派手な何かがあるわけではないが、ガイドが語るストーリーに入り込むうちに、何千年にもわたる静かな自然の営みと、その自然と共生してきた人々の確かな歴史の重みを感じることができる。

アクティビティには、知識も経験も豊富な生物学者たちが自然ガイドとして同行

翌日は、湖でのフィッシングを体験した。この地域では、ノーザンパイクやレイクトラウトなど、亜北極地帯の冷水でしか見られない魚種が生息し、釣り好きにも人気が高いという。小さなボートにゲストが2、3名ずつ乗り込むと、地元の先住民ガイドが釣り竿の使い方から投げ方のコツまで丁寧に教えてくれ、初めてでも無事レイクトラウトを釣り上げることができた。

釣りのあとの昼食は、釣った魚をその場で焼き上げる「ショアランチ」。先住民ガイドたちが、釣りたての魚を湖畔で手際よくさばき、調理してくれる。香ばしい煙の香りとともに、湖を眺めながらの食事は、旅の記憶を一層鮮やかにしてくれる。

ガイドの丁寧なサポートで、初心者でも無事釣り上げることができた。十分なサイズに育っていない魚は湖に放す

ギャングラーズでの滞在は、豪華さを競うものではない。むしろ、何もない場所で「自然に帰る」体験こそが、最高の贅沢であることを教えてくれる。都市のスピードから切り離され、時の流れがゆるやかになっていく感覚。真のラグジュアリーとは、自然と一体になり、自分自身のなかのリズムが整っていく感覚を味わうことだと、この場所は静かに示している。

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…