エクスペディア・グループは、生成AI時代における旅行検索の変化を見据え、AEO(Answer Engine Optimization:回答エンジン最適化)への取り組みを強化している。
AEOとは、ChatGPTやClaudeなどの生成AIにおいて、自社ブランドやサービス情報が適切に表示されるようにする最適化手法を指す。従来のSEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)が、Googleなどの検索エンジンで自社サイトを上位表示させるための施策であるのに対し、AEOは、AIが利用者の質問に回答する場面で、自社ブランドがどのように認識され、提示されるかを重視するものだ。
エクスペディア・グループCEOのアリアン・ゴリン氏は、同社にとってAIは「第3章」にあたると説明した。第1章は、旅行がインターネットに移行した時代。第2章は、インターネット上の旅行体験をスマートフォンなどの小さな端末に移していったモバイルの時代。そして第3章が、AIによって新しい旅行体験が形づくられる時代である。
ゴリン氏は「AIによって、新しい旅行体験がどのようなものになるのかは、まだ発展途上にある」と述べた。その新しい旅行体験は、エクスペディアのアプリ内にとどまるものではなく、旅行者がさまざまな場所でAIを使う状況まで含む。つまり、旅行者がエクスペディアのアプリを開いて検索するだけでなく、ChatGPTやClaudeのような生成AIサービスに旅行先や宿泊施設、旅程について相談する場面も、今後の重要な顧客接点になるという見方である。
同社はAIへの対応を大きく3つに整理している。第1は、自社プロダクトやアプリでAIをどのように活用するか。第2は、ChatGPTやClaudeなどの新しいAI体験の中で、エクスペディアのブランドをどのように表示させるか。第3は、社内業務でAIを活用し、旅行者はもちろん、旅行会社や観光事業者などのパートナーへの提供価値を高めることだ。
このうちAEOは、第2の領域「AIにブランドをどのように表示させるか」に深く関わる。ゴリン氏は、ChatGPTやClaudeなどを利用する人が増えるなかで、「当社のブランドがそこにどのように表示されるかを確かにする」ことが重要だと語った。現時点で、こうしたAEO関連の取り組みから同社にもたらされる市場流入は「1.5%弱」だという。ただし、ゴリン氏はこの領域について「非常に速く成長している」と述べ、規模はまだ小さいものの、今後の成長チャネルとして重視している姿勢を示した。
エクスペディア・グループCEOのアリアン・ゴリン氏
AEOは、「AIの回答」にブランドを表示させる取り組み
AEOの本質は、検索結果の順位を上げることではなく、AIが利用者に回答する内容の中で、自社ブランドがどのように登場するかを管理・最適化することにある。旅行者が「夏休みに家族で行く旅行先を比較したい」「出張に便利なホテルを探したい」「航空券とホテルをまとめて予約したい」といった質問を生成AIに投げかける場面では、従来の検索結果ページとは異なる形で情報が提示される。
検索エンジンでは、利用者は複数のリンクを見比べ、自分でサイトを選んでクリックする。一方、回答型AIでは、AIが複数の情報を統合し、文章として回答を提示する。そこでは、旅行ブランドが単なるリンクとして表示されるのではなく、推奨候補、比較対象、説明文、機能紹介などの形で登場する可能性がある。AEOは、こうしたAIの回答空間において、ブランドが正しく認識され、利用者に適切な文脈で提示されるようにする取り組みである。
ゴリン氏は、AEOについて「AI体験の中で、当社ブランドがどのように自然に表示されるかを見るものだ」と説明した。従来のデジタルマーケティングでは、検索エンジン、広告、アプリ、メール、メタサーチ、SNSなどが主要な接点だった。しかし、生成AIが旅行者の相談相手になる時代には、AIがどの情報を参照し、どのブランドを信頼できる選択肢として扱うのかが、新しい競争軸になる。
この変化は、オンライン旅行会社にとって大きな意味を持つ。エクスペディアのようなOTAは、航空券、宿泊、レンタカー、アクティビティなど複数の旅行要素を横断的に扱う。旅行者が生成AIに「どの予約サイトを使えばよいか」「どのようにまとめて予約すればよいか」と尋ねる場面では、OTAのブランド価値やサービス特性が、AIの回答の中でどのように表現されるかが重要になる。
ゴリン氏は、AEOを同社の「最も成長が速いチャネル」の一つとして語った。上述のとおり1.5%弱という小さな規模ながら、同社はこの領域を、短期的な流入だけでなく、旅行者の情報探索行動の変化を先取りする取り組みとして位置づけている。
AEOで変わるブランド管理の対象 ―Reddit、Wikipedia、ChatGPT、Claude
AEOが従来のSEOと異なる点の一つは、ブランド管理の対象となる情報源が広がることである。ゴリン氏は、大量のテキストデータを学習し、質問応答や文章生成を行うAI基盤技術であるLLM(大規模言語モデル)が、米国発の投稿型掲示板サイトであるReddit(レディット=米国のクチコミ大手)や、オンライン百科事典であるウィキペディアを見ていることに言及した。
ゴリン氏は、2025年の取り組みとして、LLMがレディットやウィキペディアを見ているなら、そこで自社ブランドがどのように表示されているかを確認する必要があると考えたと説明した。これらは、同社がこれまで自社ブランドの表示状況をそれほど重視して見てきた対象ではなかったという。つまりAEOでは、自社サイトや検索結果だけでなく、AIが参照・学習する可能性のある外部情報空間全体で、ブランドがどのように説明され、認識されているかが重要になる。
これを旅行業界で考えると、観光地、宿泊施設、旅行会社、OTA、航空会社などのブランドは、公式サイトや広告で自ら発信する情報だけでなく、旅行者の投稿、第三者の説明、百科事典的な記述、比較記事などを通じても認識される。生成AIがそれらをもとに回答を構成する場合、ブランド側は、AIにどう読まれているか、どう理解されているかを確認する必要が出てくる。
エクスペディアは、生成AIサービスとの直接的な連携も進めている。ゴリン氏は、ChatGPTがマイクロアプリを展開していた時期に早期から関わったこと、さらにClaudeとのコネクターを構築したことを明らかにした。ChatGPTは、利用者の質問に文章で回答する生成AIサービスであり、Claudeも同様に文章生成や対話を行う生成AIサービスである。コネクターとは、外部サービスと自社サービスを接続し、AI体験の中から情報や機能にアクセスしやすくする仕組みを指す。
ゴリン氏は、こうした取り組みについて「そこに表示される方法はいくつもある」と語った。AEOは、単にAIに自社名を出してもらうことだけではない。AIサービスとの連携、外部情報源におけるブランド認識、自社データや機能との接続、利用者の質問に対する回答文脈など、複数の要素を組み合わせて、ブランドの表示機会を広げる取り組みである。
専任チームを設け、提携・開発・予約販売を横断、実験を継続
エクスペディアは、AEOを一過性の実験ではなく、組織的に取り組む領域として位置づけている。
旅行者の情報探索は、検索エンジンの検索窓から、生成AIとの対話へと広がりつつある。エクスペディアがAEOに注力する背景には、旅行者がどこで旅行を考え始めても、同社ブランドが適切に認識される状態をつくる狙いがある。AIが旅行先を提案し、宿泊施設を比較し、予約方法を説明する時代に、旅行ブランドは「検索される」だけでなく、「AIにどう説明されるか」を問われることになる。
エクスペディアのAEO戦略は、オンライン旅行会社における集客競争が、SEOや広告だけでなく、生成AI上のブランド表示へと広がっている。
取材・文: 鶴本浩司

