宿泊施設へのクチコミは評価だけだなく「選ばれる理由」の時代へ、「AI最適化」の必要性も、トラストユー日本代表に聞いてきた

消費者のクチコミは、「Voice of Customer(顧客の声)」と呼ばれ、企業が顧客の意見やニーズを把握するうえで重要な情報源となっている。観光分野では、その商品がモノのように性能や仕様で比較しづらいため、消費者の意思決定に大きく影響する。

そのクチコミの活用方法も時代とともに変化してきた。AI時代を迎え、新たな段階に入っている。世界で宿泊施設のクチコミデータを収集・分析するTrustYou(トラストユー)は、その現状をどのように見ているのか。また、今後をどのように見通しているのか。世界展開する同社の日本法人代表、志和孝洋氏に聞いてみた。

消費者の意思決定に欠かせないクチコミ

クチコミの役割は時代とともに変化してきた。

近年、クチコミは単なる商品の「評価」にとどまらず、売上に直結する「選ばれる理由」の一部に進化している。TrustYouが世界の旅行者を対象におこなった調査によると、95%の旅行者がホテルの予約前にクチコミを確認し、76%が評価の高いホテルに、もっとお金を出しても良いと回答。また、同価格帯であれば、クチコミの評価が高いホテルが3.9倍以上予約されている。

TrustYouは、OTAやGoogleなど多くのサイトからクチコミのデータを収集・分析し、その情報を宿泊施設に提供している。2023年の日本市場におけるクチコミ投稿シェアでは、トップがブッキング・ドットコム(39%)。次いで、Google(17%)、アゴダ(13%)、楽天トラベル(7%)、じゃらん(6%)が続く。

志和氏は、「消費者にとって、クチコミは意思決定をサポートする意味で欠かせない要素になっている」と指摘。一方で、事業者の経営の効果として、「信頼性の向上」「集客・売上の増加」「ブランドイメージの構築」「顧客満足度の把握と改善」「従業員のモチベーション向上」を挙げる。

各OTAでもクチコミの評価を重視する傾向が高まっており、検索結果の掲載順位のアルゴリズムに、売上、在庫、PV数などとともに、クチコミの件数や点数を組み込んでいるという。

クチコミでも求められるMEO対策

宿泊予約の検索方法の変化によって、クチコミを取り巻く環境も変わりつつある。

近年は、地図アプリから宿泊施設を選ぶ旅行者が増えており、検索エンジン最適化(SEO)からMEO(地図エンジン最適化)への対応が重要になっている。例えば、Googleマップでは、「Googleビジネスプロフィール」を活用し、良いクチコミや良い点数を獲得することで、検索結果の上位に掲載される可能性が高まる。

志和氏は、「完全で正確なビジネス情報の登録や正確な距離、写真や動画の充実、ユーザーからの肯定的なレビュー獲得が重要」と強調する。

TrustYouでは宿泊施設が集めた宿泊者へのアンケート「TrustYou Survey」の回答を、自社サイトやGoogleのクチコミとして反映できる仕組みを提供している。これによって、Googleマップ検索からの集客を支援している。同社の調査では、「TrustYou Survey」を導入したホテルではGoogleのクチコミ数が約2倍に増え、平均スコアも4点台を維持するケースもあるという。

また、クチコミへの返信の重要性が増している。TrustYouの調査では、クチコミに返信しているホテルは、クチコミ件数が12%増加。平均評価も0.12ポイント上昇した。さらに、91%が「ネガティブなクチコミに対しても返信すべき」と回答。コーネル大学の調査でも、肯定的なクチコミのみに返答するホテルよりも、ネガティブなクチコミに返答するホテルが高く評価される傾向があることが示されている。

志和氏は、クチコミ投稿を待っているだけでなく「『応援メッセージをお願いします』といったクチコミを促す動線も大切」と指摘する。例えば、施設内に書き込み用のQRコードを設置することもその一つと提案した。

観光マーケティングでのクチコミの重要性を強調する志和氏生成AI時代に向けた新戦略

生成AIの普及によって、クチコミの活用は次のステージに進もうとしている。AIの理解や評価の特性を踏まえたAIO(AI最適化)への対応が求められている。

志和氏は、「クチコミは、生成AI時代の『選択ロジック』に組み込まれていく。これからは、AIから選ばれる宿泊施設になる必要がある」と語る。旅行者が生成AIにおすすめのホテルを相談する機会が増えると考えられるからだ。

旅行者が生成AIに、旅先のおすすめのホテルを相談すると、具体的な宿泊施設名を返してくる。その施設を提示した理由を聞くと、生成AIはクチコミの評価、そのバランス、投稿数を提示したり、具体的に評価点数の高いクチコミの例を返してくることもある。

一方で、志和氏は、「AIは進化を続けている。だからこそ、まだわからないことも多い」と本音も漏らす。そのうえで、「角を曲がった先がどうなっているのか、恐れず見に行ってみる『See around the corner』の姿勢が大切になるのではないか」と語った。そのうえで「良いクチコミを集めるという大きな流れは、AI時代でも変わらない」との見方を示した。

同社では、AI時代に対応するために、宿泊施設の直接予約や生産性を向上させる「ホスピタリティAIプラットフォーム」の構築を目指しているという。世界200社ほどのサイトからクチコミを収集する世界最大級のネットワーク、自社アンケートツール「TrustYou Survey」を活用したクチコミ収集、Googleとの連携などを強みとしてクチコミデータを可視化していく。

また、カスタマー・データ・マネージメントも強化。潜在顧客に適切なタイミングで適切なメッセージを配信する仕組みやLINEなどSNSとの連携で、双方向コミュニケーションの構築も視野に入れる。「ホスピタリティAIプラットフォーム」は、それらの機能を統合したもので、世界的に今秋から段階的に移行を進めていくという。

AIの利用者が増えるにつれて、クチコミ対応の技術的手法も進化するが、消費者のリアルな意見や感想を反映するというその本質は変わらない。「クチコミは管理可能で、努力すれば良いクチコミを集められる」と志和氏。宿泊施設にとって、クチコミを活用したマーケティングはますます重要になっていきそうだ。

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