
TradFit(トラッドフィット)社が提供する生成AIスピーカー「Hospitalia(ホスピタリア)」が、ホテルや旅館をはじめとするホスピタリティ領域で注目を集めている。ホスピタリアは、AmazonのAIアシスタントAlexa(アレクサ)をベースにしたホスピタリティ産業向けのサービスで、音声とスマートディスプレイ上のテキスト、画像や映像でユーザーをサポートするのが特徴だ。
新たなテクノロジーを搭載したサービスやソリューションは、事業者の課題の突破口として期待されるが、実際に打破するには事業者の前向きな発想と挑戦する決断が必要だ。この4月から、ホスピタリアの導入を決めた老人福祉施設「永光会・清流の郷」では、どのような活用方法を見出したのか。ホスピタリティ領域に共通の課題である人手不足の解決と、入居者へのサービス向上に向けた、同施設のアイデアを聞いてきた。そこには、観光関連の事業者にも参考になるヒントがありそうだ。
ホスピタリアに感じた可能性
ホスピタリアは、アレクサの法人向けサービス「Alexa Smart Properties(ASP)」を基盤に、TradFitが日本のホスピタリティ産業向けに独自の技術を付加してローカライズしたサービス。ASPは、ホテルや旅館などの宿泊施設のほか、介護施設や集合住宅、自治体もサービスの対象となっており、TradFitは国内で唯一、宿泊施設向けのASPの提供会社となっている。
ホスピタリアを導入する群馬県の老人福祉施設「永光会・清流の郷」は、要介護者が入所する特別養護老人ホームとショートステイ施設、日帰りデイサービス施設からなる施設。
同施設がホスピタリアに関心を持ったポイントは、ホスピタリアのコミュニケーションツールとしての機能性の高さとその拡張性への期待だった。入居者の利便性と快適性を高め、喜ばれるサービスを提供できると同時に、人手や財政面の課題を持つ運営面でも、効率化とコスト削減が図れるメリットがあると考えたという。
施設長の大谷義隆氏は「アレクサのことは知っていましたが、話を聞いて、ホスピタリアは要介護者の入居所者と家族が頻繁にやり取りできる良いツールになると思いました。さらに、ホテルでは問い合わせやルームサービスなどの要望を伝える内線電話代わりにも使われていると聞き、ナースコールの代替などに活用できる可能性も感じました」と説明する。
永光会・清流の郷 施設長の大谷義隆氏
誰もが扱いやすいツールである利点
導入で最も期待しているのは、入居者と家族との面会での活用。コロナ禍以降、同施設での面会は、感染症対策のために窓越しでおこなっており、当面はこれを続ける方針だ。しかし、施設内には窓越し面会ができる場所が1カ所のみ。入居者と家族が対面できる機会は限られてしまう。この課題を、ホスピタリアによる外部通話で改善できると考えた。
すでに自身のスマホやタブレットのビデオ通話などで、遠距離にいる家族と日常的にやり取りをしている入居者もいる。しかし、デジタル機器を使いこなせる入所者は少数派。気軽にスマホを操作することも、困難な人もいる。
ホスピタリアを使えば、デジタル機器の操作は不要だ。話しかけるだけで、部屋に設置されたホスピタリアがすぐに家族に連絡し、付属のスマートディスプレイを通したビデオ通話ができる。発話が困難な場合は、ディスプレイのタッチ操作も可能だ。Amazonのアレクサがベースになっているため、音声操作もタッチ操作の精度も高く、高齢者のみならず、誰もが利用しやすいツールといえる。
TradFit代表取締役の戸田良樹氏は「アレクサは、さまざまなユーザーによる膨大な情報を基に音声認識の精度を高めています。例えば活舌がよくない場合も、認識が可能なように日々進化しています」と説明。タッチ操作も、直感的かつ年齢・性別を問わずに誰もが使える操作性を追求してきたTradFitが、ホスピタリティ領域で蓄積してきた実績やノウハウ、ホテルや旅館の現場の意見をもとに、独自の技術力を駆使し、優れた操作性をバックアップしている。TradFitは知財戦略にも力を入れており、多数の特許を取得しているという。
今回導入するのは、施設の居室(個室)と、その家族宅、施設内の事務室や食堂などスタッフを配置する拠点だ。「(導入する居室の)家族の中には関西在住のため、これまでは年に1~2回しか面会の機会がとれませんでした。頻繁に顔を見てコミュニケーションできるホスピタリアの導入を楽しみにしてくれています」(大谷氏)。
高額な設備コストの軽減と機能拡張にも期待
導入のもう1つの目的は、入居者の居室に設置するナースコールと職員用の内線電話の代替機としての可能性を見ること。大谷氏はTradFitとの打ち合わせで、今後の機能拡張でナースコール機能が付けば、利便性や導入動機が増すことを伝えたという。
介護施設には、各居室にナースコールの設置が法律で義務付けられている。介護施設としても入居者の安全を守る大切な設備であるが、数年ごとの設備更新が求められる。国からの補助はあっても、更新期には数千万円単位の予算が必要だ。
これに対し、大谷氏はナースコールと職員用の内線電話をホスピタリアで代用し、施設内のコミュニケーションを一括管理することで、総合的に費用削減効果が得られる可能性が高いと期待している。
介護福祉施設の最大の課題が人手不足下での運営だ。大谷氏は「介護職全般に求職者が減少傾向で、当施設は海外の就労者とあわせて何とか確保していますが、人手を確保できずやむなく受入人数を削減する施設もあります」と現状を明かす。
この状況下で、従来のナースコールの代わりにホスピタリアでやり取りができれば、呼び出しを受けてスタッフが用件を聞くために居室に行く回数が減る。それだけでも、大きな効率化だ。入居者は緊急でない用件の場合は、スタッフのいる事務室を訪ねることが多かったが、ホスピタリアがあれば居室から気軽に質問をすることができるようになる。
戸田氏は、人手不足の課題に、ホスピタリアが根本的な解決策の一助となり得ると考えている。「コミュニケーションの一端をホスピタリアが担うことで職員の負荷軽減を図ることができれば、採用面でもプラスに働くはず。また多言語対応も可能なので、海外の就労者の確保にも役立ちます。いずれは、ホスピタリアを導入している施設は、求人が集まりやすいといった状況になるよう、尽力します」(戸田氏)。
「Alexa Smart Properties(ASP)」はアレクサの法人向けサービス。TradFitは国内で唯一、宿泊施設向けのASPの提供会社となっている
ホスピタリアの可能性を引き出すために
大谷氏は「ホスピタリアにナースコール機能が付けば、多くの介護福祉施設が喜ぶはず。導入を通して機能開発に協力し、成果が形になれば」と期待を示す。すでに1点、要望も伝えている。「入居者が居室から音声でナースコールを起動し、介護者を呼べる利便性は高いのですが、発話ができない方が利用することや、ナースコールを使用する時に声を出せない状況になることもあります。手元のボタンを押して呼べる、従来のナースコールの機能をぜひ備えてほしいと思います」(大谷氏)。
これに、戸田氏も「機能開発に取り組み、介護福祉施設の要望に応えていきたい」と意欲的だ。「その結果、入所希望者から『ホスピタリアがある施設なら安心、快適』という評価を受けられるようになり、導入施設の差別化につながるように取り組みます」と話した。
広告:トラッドフィット
対象サービス:Hospitalia(ホスピタリア)
記事:トラベルボイス企画部