
世界で地政学的リスクや経済的な不確実性が増す中でも、中東ドバイのインバウンド旅行市場は好調だ。2024年の外国人旅行者数は前年比9%増の1872万人、直近の2025年第一四半期でも前年同期比3%増の531万人と前年を上回った。ドバイ経済観光庁インターナショナル・オペレーションズ・アジア・太平洋地域統括ディレクターのシャハブ・シャヤン氏は、「ドバイの観光産業はすべて通常通りに動いている。私自身が今回メディアイベントのために来日したのもその証」と話す。
他市場と比較して回復が遅れていた日本市場についても増加傾向が続く。2024年の日本人旅行者数は同44%増の9万1000人となり、世界平均の増加率を大幅に上回った。また、2025年第一四半期も同13%増の2万8000人と好調に推移した。
シャヤン氏は、ドバイ観光の強みとして「想像よりも気軽に楽しめる」ことを挙げた。エミレーツ航空の路線網は世界に広がっており、日本路線では、羽田、成田、関西線を毎日運航している。また、コンパクトな都市として、空港と市内、観光地間の移動がスムーズな点も気軽さの一つとして強調した。
さらに、ドバイは富裕層旅行というイメージが強いが、「無料で楽しめる観光施設も多く、ホテルも幅広い価格帯から予算に応じて選べる」と説明。アクティビティもショッピングを中心とした都市観光だけでなく、マリンスポーツ、砂漠でのグランピング、ウェルネスなどドバイならではの多彩な体験を提供しているとアピールする。
日本市場向けには、「ガストロノミーが非常に重要」との認識を示したうえで、ドバイは世界貿易のハブとして発展してきた背景から、多様な食文化が集まることも強みとした。
日本への期待を語るシャヤン氏
「誰でも気軽に楽しめる場所」として、家族旅行の目的地としての存在感も高めているほか、障がい者も安心して楽しめる観光都市を目指しているという。ドバイは2025年、国際資格認定・継続教育基準委員会(IBCCES)から「認定自閉症観光地」として認定された。
「ドバイの最優先事項は、安心して滞在を楽しんでもらうこと」とシャヤン氏。ドバイ経済観光庁の戦略として、訪問者数の増加に加えて、滞在期間の延長や現地消費額の拡大を進めていく。また、訪問者のうち20%強がリピーターとなっていることから、「ドバイの多様性、ホスピタリティ、費用対効果などが評価されている」と手応えを示し、さらなるリピーター増加にも大きな期待を寄せた。
ドバイは2023年、2033年までの10カ年計画ドバイ経済アジェンダ「D33」を発表した。ドバイを世界一住みやすく、働きすい都市に変革し、10年間で海外貿易額を過去10年間の14.2兆ディルハム(約568兆円)から、今後10年間で25.6兆ディルハム(約1024兆円)へ拡大させる。「D33」では観光についても言及しており、レジャー、ビジネスなどの訪問者数で世界トップ3を目指すことを目標に掲げている。
有望なインセンティブ市場として日本に注目
ドバイは、レジャーに加えて、MICEでも日本市場に大きな期待をかける。
6月下旬には、現地からサプライヤーが参加した「ジャパンロードショー2025」を東京と大阪で開催した。主催したドバイ・ビジネス・イベント・アソシエイト・バイス・プレジデントのカリナ・ランス氏は「日本市場では、特に企業のインセンティブ旅行の誘致を強化する」と話す。ワークショップでも、MICEだけでなくレジャー関連の現地オペレーターも多く出展した。
ドバイのMICE市場は成長を続けている。2024年に開催された国際ビジネスイベントは過去最多の437件。2029年までに20万人以上のMICE参加者がドバイを訪れる見込みだという。
ランス氏は、日本市場について「インセンティブが戻りつつあり、中小規模のグループの問い合わせも増えている。今後は大中規模のグループへのアプローチも考えていく」と明かした。
ドバイ・ビジネス・イベント・アソシエイト・バイス・プレジデントのカリナ・ランス氏
また、ランス氏は、MICEデスティネーションとしてのドバイの強みについても説明。世界中から人が集まりやすいロケーション、豊富な航空ネットワークと座席オプション、多彩な現地体験プロダクト、ホテルの多様な選択肢などを挙げた。
さらに、MICEインフラが充実している点も強みとして付け加えた。インフラに関しては、ドバイ万博2020(新型コロナの影響で開催は2021年10月に延期)のレガシーが生きているという。ランス氏は、「万博を開催したことで、ドバイは世界クラスのMICEデスティネーションとしての地位を確かなものにした」と自信を示す。万博後、COP28がエキスポ・シティ・ドバイを会場として開催されるなどさらに実績を積み上げている。
現在、エキスポ・シティ・ドバイは展示会など会場として活用され、ワールド・トレード・センターは、国際会議や企業イベントなどに活用。海外からの訪問者数増加に向けて、MICE分野でも官民一体となった投資を進めている。
ドバイ万博のレガシーとなっている「エキスポ・シティ・ドバイ」ランス氏は、「日本は、レジャーイベントとビジネスイベントで大きな可能性を秘めている」と強調。インセンティブについても、「社員のモチベーションを高める意味でも、現地体験を日頃の仕事に活かしていくうえでも、ドバイは様々な機会を提供できる」と自信を見せた。
※ディルハム円換算は1ディルハム40円でトラベルボイス編集部が算出