
2025年、訪日外国人客は過去最多の4000万人に達する勢いだ。こうしたなか、インバウンドをテーマにしたイベント「THE INBOUND DAY 2025 ― まだ見ぬポテンシャルへ ―」が、さきごろ都内で開催された。市場動向や戦略に関する多彩なセッションが繰り広げられ、リアル会場にはインバウンドに関わる関係者約1000人が集まった。
開会の挨拶に立った主催者のmov専務取締役の菊池惟親氏(写真)は、「コロナ禍明けの今こそ大きな転換期だ」と語り、イベント開催の背景を「インバウンドとは何か」を問い直す場として企画したと説明した。
元大阪府知事・橋下氏「インバウンドは第二の基幹産業へ」
基調講演に登壇した元大阪府知事・大阪市長の橋下徹氏は、自らが推進した大阪の都市戦略を振り返りながら、インバウンド産業に対する提言を行った。人口減少を見越して2009年からインバウンドに取り組んできた橋本氏は、自動車産業に次ぐ輸出産業として今後も拡大が期待されると述べ、「外国人観光客はお金を使う顧客であり、事業者の工夫次第で必ず利益につなげられる」と、インバウンドは大きなビジネスチャンスがあると訴えた。
2008年の府知事就任時から橋下氏は大阪を「中継都市」として、域内人口や企業の増加ではなく、世界から人・モノ・金・情報を通過させることで経済を活性化する戦略を推進してきた。大阪市長時代には、京都が景観保護のために広告規制を敷く一方で、大阪は看板やネオンを推奨。「猥雑さと雑多さ」という大阪の個性を前面に掲げることで、独自の魅力で外国人観光客を呼び込むことができたと語った。
「インバウンドで日本を元気に!」をテーマに登壇した橋下氏
さらに橋下氏は、政府が掲げる「2030年に訪日6000万人、消費額15兆円」という目標について「さらに上振れする可能性がある」と展望。そのためには、事業者が競争するだけでなく「一つの企業体」のように、旗振り役と実務者が役割分担し、協調ネットワークを構築すべきだと訴えた。「それぞれの地域で魅力を出し、相互補完しながら、果実を取っていくようなムーブメントを起こしてもらいたい」と述べた。
また、インバウンド拡大に伴う課題として違法民泊の問題や外国人への不安感の高まりにも言及。「魅力の提供」と「ルールの整備」をセットで進める必要があるとの考えを示した。訪日客に日本の文化・マナーを知ってもらう取り組みについては、政府や自治体では不十分で、「外国人と日々接する事業者全体がマナーや文化ルールの伝達に取り組むべき」と呼びかけた。
溝畑氏「大阪はゲートウェイ、地方への分散が鍵」
続いて登壇した大阪観光局理事長の溝畑宏氏は、橋下氏の旗振りのもと、大阪の成長戦略の推進役を担ってきた経緯を語った。「大阪をアジアナンバーワンの国際都市にする」という強い決意のもと、空港の機能強化、ベイエリアの活性化、万博誘致を進め、早期にWi-Fi、多言語表示、宿泊環境の整備を先導したと振り返った。その結果、大阪の訪日客数は2014年の376万人から今年は1700万人を超す見込み。消費額も2700億円から昨年は1兆3000億円へと急成長した。
溝畑氏は、国のインバウンド目標額15兆円に対して、大阪で5兆円獲得を目標に掲げるが、「大阪一極集中では限界がある。6000万人時代には地方への分散が不可欠」と述べ、さらなる発展には、地方も受け入れ体制を整え、観光産業の地位や待遇を引き上げて、大谷翔平のようなスター人材を生む業界にすべきと訴えた。さらに、大阪を「ゲートウェイ型ハブ都市」として、旅行者を全国へ誘導することがIR成功の鍵になると強調した。
最後にインバウンドについて、溝畑氏は、世界平和や国際交流に寄与するとともに、地域の誇りを掘り起こし付加価値を高める産業だとし、橋下氏も「伸びしろ最大の超イノベーティブ産業」と位置づけ、テクノロジーとホスピタリティを融合させ、宿泊や飲食の枠を超えた新たな価値創造を訴えた。
「大阪から日本を変える」という橋下氏の姿勢に感銘を受けたという溝畑氏
文化・社会課題と観光の接点
イベントでは、日本文学研究者ロバート・キャンベル氏と脳科学者の茂木健一郎氏によるセッションも行われた。
キャンベル氏は、海外メディアが注目した能登半島地震被災地の復興観光や大阪のLGBTプライドセンターの事例を挙げ、文化や社会課題への取り組みが観光資源となり得ると指摘。AI検索時代において、地方の食や体験が十分に情報化されていない現状を課題視する一方、東京の下町のように「情報化されにくい空気感」も魅力になり得ると指摘した。
日本文学研究者のロバート・キャンベル氏
茂木氏は、外国人の視点を通じて日本人が自国を再発見する「ディスカバージャパン」を訪日客とともに進めることを提案。何気ない日常や風習も外部から見れば貴重な文化資源であり、それを共有・再評価することで新たな価値を生み出せると語った。
脳科学者の茂木健一郎氏