JTB決算、4年ぶり売上高1兆円超、旅行事業は需要回復の勢い取り込む、旅行外事業の比率高まり利益率が向上

JTBの2024年3月期連結決算(2023年4月1日~2024年3月31日)で、売上高が4年ぶりに1兆円を超えた(前期比11%増の1兆810億円)。売上総利益は3%増の2630億円。一方、販管費や人件費、観光DXなど成長への投資を強化し、営業経費は前期より171億円増加。営業利益は26%減の249億円、経常利益は27%減の289億円、当期純利益は39%減の183億円となり、増収減益となった。

当期は、国内旅行や訪日旅行が回復。コロナ後の企業イベント・出張の需要を捕捉したほか、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)やG7広島サミット、ラグビーワールドカップといった国内外の国際イベントの取り扱いも獲得した。世界的な人流回復を機に強みのグローバルネットワークを活用したビジネス展開で、グローバル事業も大きく回復した。

決算会見で、JTB代表取締役社長の山北栄二郎氏は、「4年ぶりの1兆円超は、非常に感慨深い。大きく落ち込んだ需要がようやく戻ってきた。コロナ禍に取り組んできた様々な取り組みで、マーケットの流れを捕捉することができた」と、苦しい時期に実施した施策の成果であることを強調。利益面も、店舗改革など構造改革の結果が表れてきたとし、「海外旅行が完全回復していない状況だが、一定の利益を出せたことは非常に重要」と話した。

訪日・グローバル旅行が好調、損益分岐点が低下

売上総利益で旅行ビジネスをみると、国内旅行は1%増の909億円、訪日旅行が248%増の137億円、グローバル旅行(日本以外の第三国間における旅行事業)は152%増の179億円。訪日旅行とグローバル旅行は約100億円の増収となった。海外旅行は、コロナ前水準への回復には「まだ道半ば」(山北氏)だが、275%増の426億円と前期比では大幅に増収。2024年1月にMLBと締結した国際パートナーシップによるホスピタリティパッケージなど、様々な施策で徐々に戻りつつある需要の獲得に取り組んだ。

また、旅行外事業(商事・広告・出版・経済対策関連のBPO、企業のイベントサポート、ふるさと納税など)の売上総利益は978億円。コロナ関連のBPOは減少も、企業や国・地域などの課題に沿ったソリューション提供で、コロナ前の約2倍(2019年度509億円)を維持した。売上総利益率は前期より2.3ポイント増の30.6%に上昇し、旅行事業の21.7%を大きく上回った。利益率の高い旅行外事業の比率が高まった結果、全体の売上総利益率は24%となり、2019年度の22%から2ポイント拡大した。

このほか、構造改革の効果に関しては、固定費が2018億円となり、2019年度から389億円減少。2019年度と比べると、売上総利益全体では191億円少ないが、営業利益は2019年度の14億円を大幅に上回る249億円を計上した。旅行外事業の強化と構造改革の効果により、損益分岐点が2019年度の1兆2812億円から9621億円となり、25%低下した。今後も、この損益分岐点の水準を維持しながら、さらなる成長を目指す考えだ。

2024年度は“成長から飛躍へのフェーズ”、海外旅行の回復にも投資

2024年度の業績予想は、売上高1兆1620億円、営業利益116億円 。現在の中期経営計画ではフェーズ3「成長から飛躍への段階」とし、攻めの投資を継続。各事業において規定概念にとどまらないビジネスモデルの変革と収益性の向上、事業領域の拡大を図っていく。

特にツーリズム事業では、大テーマに「海外旅行の回復」を掲げる。コロナ禍以降の旅のトレンドは目的型であり、海外旅行においても「高付加価値なコンテンツ拡充が重要」(山北氏)と認識。トラベル&ホスピタリティ事業で、MLBとの契約により日本・アジア地区での独占的な企画造成・販売権を獲得して実施しているホスピタリティパッケージはその1つ。トラベル&ホスピタリティ事業では今後、スポーツのみならず、音楽や文化イベントにも導入していく予定だ。また、海外旅行の需要喚起に向けた各種プロモーションや仕掛けも、積極的に展開する。

また、エリアソリューション事業は「地域との共生」を、ビジネスソリューション事業は「企業エンゲージメント向上」をテーマに掲げる。エリアソリューションでは、社会の変化や企業・行政などの課題のニーズに観光DXを軸に対応。オーバーツーリズム対策のソリューションも取り組む。ビジネスソリューションでは強みである「M&E(Meeting & Event)」(法人の会議やイベント)の領域におけるブランド化をおこない、ROIを可視化するツール導入など、デジタルを活用した営業力強化も図っていくという。

このほか、事業基盤の強化では、CX(コーポレートトランスフォーメーション:企業の変革)を推進。DXや働き方改革によって生産性向上と商品サービスの高付加価値化を進め、利益水準の引き上げに取り組む。生成AIの活用を加速し、ダイナミックプライシングのアルゴリズム化に向けた開発も加速する。さらに、イノベーション創発も重視。2023年秋に始動したプロジェクト「nextender」など社内外のコラボを促進し、イノベーションが起こり続ける企業風土を醸成していく方針だ。

サステナビリティに関しては、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた具体的な施策をさらに積み上げていくほか、脱炭素以外の生物多様性や人権といったテーマにも具体的な目標を設定し、取り組むとした。

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